Sep 2021 – Covid-19問題に関する雇用審判所の審決から雇用主は何を学ぶことができるか?

パンデミックの発生により、多くの雇用主は急速に変化する状況の中で難しい決断を迫られ、雇用審判所への請求が殺到するのではないかと懸念していた。今回はこれに関するいくつかのケースを取り上げ職場復帰を計画する際にどのような教訓を得ることができるかを考えてみたい。

従業員の就労拒否、安全衛生規則の遵守、重症化リスクの高い従業員など、重要な問題について、雇用審判所の判決が発表され始めている。その中からいくつかのポイントをご紹介する。


1 従業員の勤務拒否

ロックダウン中もビジネスを継続することのできた雇用主は、出勤を拒否している一部の従業員のいることが分かった。従業員は、重大かつ差し迫った危険があると合理的に判断した場合、自分自身(または周りの人)を守るために仕事を中断したり、他の適切な手段を講じる法的権利を有している。

Accattatis対Fortuna Groupの裁判では、セールスおよびプロジェクトマーケティングのコーディネーターが、通勤や職場への出勤に対する懸念から、一時帰休や在宅勤務の許可を求めた。雇用主は代わりに年次休暇の取得を提案した。雇用審判所は、その従業員に在宅勤務は認めず、パンデミックを理由に職場への出勤を単純に拒否することはできないと判断した。

対照的にMontanaro 対Lansafe Ltdの裁判では、IT職に就く男性がロックダウンが発表されたときに年次休暇でイタリアに滞在中で、そこに留まることを決めた事例である。雇用主の解雇決定を不当とした雇用審判所は、コロナウイルスの脅威自体が深刻で差し迫った危険であり、従業員はイタリアからの遠隔勤務によって自らを守るために適切な手段を講じていたとの見解を示した。

しかし、Rodgers対Leeds Laser Cutting Ltdの裁判では、雇用審判所は、もしウイルス自体が深刻で差し迫った危険な状況を作り出すのであれば、パンデミックという理由だけで、いかなる状況でも労働を拒否することが法律で保護されると述べた。このケースでは、雇用主は政府の職場安全ガイダンスを順守し、従業員は何の懸念も示していなかった。雇用審判所は、従業員には仕事を休む権利はないと結論づけた。

これらの数少ない判決から確固たる結論を導き出すことはできないが、雇用審判所は一般的にRodgersのケースのアプローチを踏襲し、従業員が出勤を拒否することを正当化する前に、雇用者が適切な予防措置を講じていないという証拠や、特定の危険性を示すその他の証拠を必要とすると考えられる。

また、雇用者側と被雇用者側の行動の仕方にも違いがある。Montanaro事例では、雇用主は被雇用者がイタリアに留まるべきか、英国に戻るべきかについて何のアドバイスもせず、被雇用者がイタリアにいることを知っていたにも関わらず、解雇通知を英国の住所に送った。

Rodgers事例では、当該従業員が「See you later mate」と気軽に言って職場を後にして、出勤しないことが正当であると主張しようとしながら、職場以外の場所では自己隔離ルールに違反していたことが発覚した。

これらのケースから時間が経過し、現在ではほとんどの人がワクチンを接種し、政府は最近ほとんどの制限を解除し職場への復帰を奨励している。しかし、雇用主が適切な安全衛生措置を講じなかった場合などに、従業員が「重大かつ差し迫った危険」のテストを満たす可能性は確かに残っている。


2 安全衛生規則を遵守しない場合の解雇

パンデミックのリスクへの懸念から職場への出社を拒む従業員がいる一方で、雇用主の職場の安全指導に従うことを拒む従業員もいる。Kubilius対Kent Foods Ltdのケースは、配送ドライバーが顧客先でトラック内の運転席にいる間、マスクを着用しなかったことを理由に解雇されたことに関するものだった。雇用審判所は、当時のマスク着用に関する公式ガイダンスが任意であったにも関わらず、この解雇は正当であると判断した。

このケースは、政府のガイダンスよりも厳しい場合でも雇用主が独自の安全衛生規則を施行する権利を認めるものである。医療上の免除が適用される場合などにもマスクを着用しなかったことを理由に従業員を解雇することが不当解雇になるケースはまだあるであろうが、雇用主は、安全衛生リスクアセスメントで管理ポリシーなどで特定の制限を強いるより強い立場にいるであろう。


3 重症化リスクの高い従業員

雇用者にとって最も難しい問題の一つは、重症化リスクの高い従業員の保護である。この問題に関する審判まだ数件しか出ていないが、雇用審判所は健康が最も心配される人々に対する慎重なアプローチを支持しているように考えられる。

Prosser対Community Gateway Association Ltd裁判において、雇用審判所は、妊娠中の従業員がパンデミックの初期に帰宅させられ、安全衛生対策が整うまで職場に戻ることを許されなかったことに対して違法な差別はなかったと判断した。雇用審判所は、雇用主がパンデミックの間その従業員とその赤ちゃんの安全を守るために契約上付与することが出来る以上の賃金を支払うなど、できる限りのことをしたことに賛意を表した。

Gibson対Lothian Leisureのケースで雇用審判所は、シェフが安全衛生対策の欠如と重症化リスクの非常に高い父親への感染のリスクについて懸念を示して職場への復帰を拒否したことのみを理由にこのシェフは不当解雇されたと判断した。

雇用主は答弁書を提出せず聴聞会にも出席しなかった。そのため、雇用審判所は、予防措置がなく「Shut up and get on with it.」と言われたという従業員の説明に反するる証拠をもたなかった。このケースは、「周りの人々」を危険から守るという従業員の権利が、少なくともパンデミックの状況下では、自身の家族にも及ぶ可能性があることを示している。 しかし、この裁判の時点では、重症化リスクの高い人を対象としたシールディングガイダンスが実施されており、ワクチンプログラムもまだ実施されていなかった。しかし今日、従業員が重症化リスクの高い親族を守るために同様の行動をとることは必ずしも合理的ではないと考えられる。


4 結論

雇用審判所 は、パンデミック当初の状況と当時適用されたガイダンスを再検討するという難しい立場にある。雇用審判所は、雇用主がパンデミック下でのビジネス運営を余儀なくされた困難な状況を認識しており、雇用審判所の決定は、雇用主と従業員が全体として合理的に対応したか、不合理に対応したかに強く影響されながらも、一般的にはバランスが取れているように見える。

職場復帰を促進する雇用主にとって、これまでの雇用審判所の判決から得られた最も重要な教訓は、スタッフとの協議、リスク評価の更新、適切なCovid安全対策の実施、そしてこ、れらがスタッフに説明され適切に実施されることを保証することである。雇用審判所は、雇用主がスタッフを保護するための適切な措置を講じていない場合、一貫して請求者に有利な判決を下してきた。

最後に、上記の雇用審判所の判決は、主にパンデミックの最初の数ヶ月間の請求を対象としており、その後の状況や政府の指針が大きく変わっていることを念頭に置くことが重要である。雇用審判所は、請求時点でのCovidの状況とガイダンスに基づいてケースを評価する。つまり異なる時期に起こった同様の事実に基づくケースは、今日では異なる判決が下される可能性があるということである。



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