Aug 2021 – 2021年7月1日からの就労権のチェックに関する新たなガイダンス

2021年6月18日、ホームオフィスは雇用者向けに就労権チェック実施に関する新たなガイダンスを発表した。これは、2021年7月1日からEEA(欧州経済地域)及びスイスの国民とその家族に影響を与える就労権チェックの大幅な変更に先立って発表されたものである。

このガイダンスは、既存の従業員が2021年6月30日までにEU定住制度(EUSS)への申請を怠ったことが分かった場合、雇用主はどうすべきかという質問に答えているが、2021年1月1日から2021年6月30日までの間に英国で不法に仕事を始めたEEA国籍者の立場については言及していない。

就労権チェックの変更は、2021年7月1日以降に実施されるチェックにのみ適用されることを明確にしておくことが重要である。2021年6月30日までに働く権利をチェックされたEEA国籍者やその家族は、それ以降に雇用が開始されたとしても、遡及的なチェックの必要はない。

コンプライアンスチェック実施済みの雇用主は、該当従業員が英国で働く権利を持たないことが後で判明した場合、民事上の罰則に対する責任を法的に免れることができる。ただし、経過措置が適用されない限り、雇用主はその従業員を解雇しなければならない可能性がある。

最大の影響は、EEAのパスポート(アイルランドのパスポートやパスポートカードを除く)やEEA国民が保持するIDカードが就労権の証拠として認められなくなることである。

また、定住カード(BRC)がEU法に基づいて発行されたものなのか(認められない)、EU定住制度に基づいて発行されたものなのか(認められる)について、雇用主が混乱する可能性もある。誤りのリスクを最小限にするために、雇用主はBRCに頼らずにオンラインの就労権チェックを実施するにあたり、EEA国籍者の家族にシェアコードを提供するように呼びかけることはできるが、要求することは出来ない。このガイダンスでは、ホームオフィスが2022年初頭から就労権証明書としてのBRCの機能を段階的に廃止する意向であることが確認されている。

2021年6月30日までに従業員がEU定住申請をしていないことが判明した場合、どのように対処すべきかという問題は、ここ数ヶ月、雇用主の懸念となっている。これは、従業員が不法就労していることを知っている、または信じるに足る合理的な理由がある場合には、刑事犯罪に当たるからである。不法就労は該当従業員にとっても犯罪となる。

今回のガイダンスは、2021年6月30日以前にEEA国籍者を善意で雇用し、雇用権チェックを遵守している雇用主を、ホームオフィスが起訴する意図がないことを明確にしているため、雇用主にとっては心強い。

2021年12月31日までは、EU定住申請を怠った既存従業員を保護するための現実的な経過措置が設けられている。おそらく意図的ではないと思うが、この経過措置は、2021年6月30日以前に雇用が開始されるEEA国籍者のみを対象としており、2021年6月30日までに雇用権チェックが行われたものの、2021年7月1日以降に雇用が開始される人には不備が生じている。また、EEA国籍者の家族も対象外となっている。なお、この経過措置は2021年7月1日以降に就職する予定の新入社員には適用されないことに注意が必要である。そのようなシナリオで個人がEU定住申請を遅れてする必要がある場合、ホームオフィスは雇用主に対し、EU定住ステータスが付与され、きちんと確認されるまで雇用を開始しないよう助言している。

2021年1月1日以降に英国に入国したEEA国籍者の中には、EU定住申請する資格がない場合、不法就労したことになる者が出てくる。これは、2020年12月31日に終了したEU自由移動権ではなく、(おそらく自覚せずに)ビジターとして入国したことになるからである。

2021年6月30日までは、EEA加盟国のパスポートと自国のIDカードが就労権の証拠として認められていたことを考えると、自身の持つ権利について混乱している人がいてもおかしくはない。後々まで問題が発見されない可能性がある。例えば、雇用主が過去に遡って雇用権チェックを行うことにした場合、将来的な英国入国時の審査時、もしくはスポンサーのコンプライアンス監査やホームオフィスにおける不法就労確認などの過程である。

こういった例外にあたる個人については、本ガイダンスでは一切取り上げられていない。彼らはEU定住申請資格がないため、経過措置は適用されず、雇用主は問題が明らかになった時点で解雇プロセスを開始しなければならない。

特に、影響を受けた個人が移民資格を適法化しようとした場合、移民条件に違反して働いていたり、オーバーステイ(英国に6ヶ月以上滞在している場合)を理由に拒否される可能性があるため、この問題にどのように対処するかについて、ホームオフィスが更なるガイダンスを発表することが期待されている。

雇用者は、以下のアクションポイントを検討すると良いであろう:

  • 2021年7月1日以降に実施される就労権調査のために従業員に提供される情報を更新し、改定後のホームオフィス適用書類が含まれていることを確認する
  • EEA国籍者(アイルランド国籍者を除く)およびEU法に基づいて発行された書類に基づいて就労権チェックを行った家族に対して、遡及的に就労権チェックを行うかどうかを決定する。このチェックは2021年7月1日以降、理想的には2021年12月31日までに行い、必要に応じて経過措置を利用する
  • COVID-19 EU定住権のガイダンス、および継続居住が損なわれる可能性のある状況について認識することを促し、企業に海外での在宅勤務に関する規定がある場合にはそれと連動させる
  • EU定住許可(定住前および定住後の両方のステータス)の開示を引き続き奨励し、定住前のステータスが失効した場合には記録しておき再確認する
  • 定住資格の申請は、5年間の継続した居住期間があればすぐにでも可能であり、特定の事情があればそれよりも早く申請できることを強調した情報をスタッフに送ることを検討する
  • 定住資格を持つ従業員に対して、定住資格を得る可能性のある最短の日を知らせるリマインダーをすることを提案したり(または、従業員が自分でリマインダーを設定するように助言する)、また、従業員が定住資格を取得したことの開示を奨励することを検討する

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