第5回:心の何かが動いた

飯塚: 原田さん、奥様の美弥子さん、 そしてお嬢さんの智美さんに、この対談企画をご快諾頂いてから、ここに至 るまでほぼ一年が過ぎました。この間、 原田さんの体調の変化、また、コミュニ ケーションが思うようにいかないなどの難しい局面も経て、こうして読者の皆様に対談記事をご紹介することができる ようになりました。今回は、この対談シリーズを始める直前に頂いた、原田さん、美弥子さん、そして智美さんのご家族3名の署名入りメールを是非ご紹介させて頂き、5回に渡ったシリーズの完としたく思います。

「路半ば 見上げる空は 梢星」 飯塚忠治

飯塚さんへ  
先日飯塚さんから送って頂いたインタビューのための質問の数々から、この1年あまりを振り返り、改めて自分たちの気持ちや考えを整理する機会を頂いています。質問によって新たに得ることができた気付きの一つを、今の私たちから伝えられるとしたら、それは健康の大切さというより、あえて言うなら生きるということについてかも知れません。 生きること、と言うと壮大な言葉に聞こえるかも知れませんが、脳梗塞発症後かなり快復してきたとはいえ、まだ道半ばである私たちが、現時点で健康の大切さを語るのは 難しいと感じており、同時に現在私たちがここまで来ることができたのは、健康(=脳梗塞発症前の状態)という過去に固執せず、今と未来を信じて一歩一歩進んできた結果なのだという気がしています。飯塚さんから質問を頂くまでは、この1年余りの体験をここまで深く考えたことはなく、 自分の気持ちを内観するとともに、父や母とも話しました が、2人とも私と同じ気持ちだということでした。 言葉でうまく伝えることができるかどうか分かりません が、家族の一人が脳梗塞を経験したことによって、私たち 家族の中では「健康=幸せ」という固定概念がなくなりまし た。健康や病気の予防はもちろん大切です。ただ一方で、 もしやむを得ずそれを失ってしまったとしても、失ったも のや、過ぎてしまった過去に目をやるのではなく、「今こ こ」に向き合う。これは健康をあきらめたというのではなく、 今できることをやる、その積み重ねが大事なのだと思いま す。ですから、夢や希望、チャレンジしたいことがたくさ んあり、やりたいことに一つひとつチャレンジしていきた いと思っています。そして父と話しながら、こういった考 え方が、入院中も退院してからも、父のメンタルがほぼ安 定している要因でもあるのかなと感じています。  
2018年8月現在 退院から早くも1年が過ぎ現在は週 2日のリハビリに通いながら、懇意にしてくださっている素敵な方たちとパブへ行ったり、ピクニックをしたり、家族 でドライブに行ったりと今年は例年以上に忙しい夏を過ごしました。会うたびに元気になっているとおっしゃって頂いたり、セラピストにも快復の度合いを褒めてもらえる機会が多くあり、それがもっと元気になろうというモチベーションにもなっています。これからも更なる快復に向けてのチャレンジは続きます。  
飯塚さん、この様な機会を頂きありがとうございました。
原田豊、美弥子、智美

7月28日、ハートフォードシャーのラドレットにて。左から、 渡辺さん(歌人)、美弥子さん(奥様)、原田さん、智美さん(お嬢さん)

ご友人からのお見舞いの短歌
一年と七カ月後に約束を果たして 今日の集 つ ど ひ嬉しき (歌人 渡辺幸一さん)

本コラムの過去記事は、下記アドレスでご参照いただけます www.centrepeople.com/japanese/article