Oct 2021 – イギリス企業内弁護士を対象とした調査が示す、ハイブリッド・ワーク、家族や多様性、健康面に関する新しい傾向

Lewis Silkin法律事務所は、Covid-19パンデミック後の雇用規定の状況を探るため、企業内雇用弁護士を対象とした調査を実施しました。本記事では、調査結果の概要をご紹介します。

この18ヶ月間、我々は職場で大きな変化を目の当たりにしてきましたが、一時的なCovid対策を除けば、雇用法の恒久的変更はごくわずかしかなかったと考えます。我々は未だに雇用法案やその他の改革が制定されるのを待っている段階です。

しかし、多くの企業がこの法制上のギャップに踏み込み、更年期障害からハイブリッド・ワーキングに及ぶ様々な課題で新しい規定やアプローチを採用しています。そこで、企業内の雇用弁護士を対象にこれらの傾向を調査しました。本記事ではその結果を紹介することにします。回答者は総勢15万人以上の従業員を抱える組織で働く専門の社内雇用弁護士です。


フレキシビリティとハイブリッド・ワーキング

今回の調査では、スタッフ全員に週5日の通常オフィス勤務を義務付けると、答えた回答者はいなかった。予想通り、ほとんどの企業がハイブリッドモデルに移行しているが、最低出勤日数の考え方は様々である。しかし、あまり予想できなかった点は、オフィスで働く必要がなくなった日の給与を企業がどのように扱うかということだ。メディアでは、給与の削減を検討している企業の例が取り上げられているが、これは一般的なアプローチを反映したものではないということが今回の調査で分かった。調査では、回答者の10人中9人(87%)が新しいモデルに移行する際に給与を調整するつもりはないと回答している。これは、採用と雇用維持に関する現在のプレッシャーを反映していると考えられる。賃上げは次の問題であり、特に、オフィスを移動する従業員とほぼオフィスにいる従業員との間に差が生じるかどうかが問題となる。

調査結果から、回答者の約半数が柔軟な働き方、ハイブリッド型、リモート勤務への取り組みを説明・アピールするために求人広告を変更している。これは企業が柔軟性を採用の鍵と考えていることを示している。このことは、柔軟性における相対的な重要性についての質問でも裏付けられている。回答者の3分の2近く(63%)が、勤務地に関する柔軟性は、スタッフを動機づけるために益々重要になっていると考えており、3分の1(33%)は給与やボーナスと同じくらい重要になってきていると考えている。

多くの雇用主は、海外からの勤務の要望に対応している。大多数(56%)の企業は、海外からのリモートワークを許可しており、緊急の理由や短期間の「休暇延長」の申請が最も一般的な許可状況となっている。興味深いことに、40%以上がリモートワークの時間に制限を設けており、雇用主が規定を厳しくする可能性を示唆している。


家族と多様性

調査では、企業が導入している規定や慣行、また新たな規定導入や検討の原動力となっているものについても質問した。

更年期障害や妊娠損失にまつわる雇用問題への認識は高まっており、活動家たちは法改正を求めている。(更年期障害が審判請求の根拠となる場合についての記事はこちらもご覧ください。)予想通り、多くの企業が既にこれらの問題に関する規定を導入している。4分の1近く(23%)が流産や妊娠中損失に関する規定を既に導入しており、さらに10%が規定の導入を検討している。また、4分の1以上(27%)の企業が更年期に関する規定を導入しており、さらに30%の企業が導入を検討している。更年期障害規定には、一般的に、更年期に関連した柔軟な働き方や病欠に関する詳細が含まれており(規定の86%がこれを含む。)マネジャーのトレーニングや従業員のサポートグループも人気の要素となっている。流産に関する規定では、有給休暇の提供が一般的であり、80%以上の規定にこれが含まれている。

裁判所は、出産手当金を充実させる一方で、共同育児休暇については基本的な法定最低限度の資格しか与えないことは差別ではないと判断している。(最高裁は昨年、この問題をこれ以上議論する余地を与えなかった。)しかし、実際には給付金の平等化に向けた動きがあるかもしれない。アンケート回答者の半数近く(47%)は、育児手当と出産手当を同額にしており、さらに20%は同額にすることを検討しているという。

雇用主は、性別やトランスジェンダーの権利をめぐる問題への認識の高まりにも対応している。40%が雇用契約書や人事方針に性別を区別しない表現を採用している。3分の1以上(36%)が職場規定の移行を導入しており、さらに29%の雇用主が導入を検討している。

3分の1以上(38%)が民族間賃金格差の計算を開始、また、60%が法律で定められているよりも詳細に男女間賃金格差を計算しており、結果を公表している企業もあれば、社内の関係者とのみ共有している企業もある。

これらの取り組みを採用した背景にはさまざまな要因があるが、ほとんどが企業の価値観や他の雇用主との競争力を維持したいという思いからである。今後は、知名度の高い企業が自社のブランド価値に基づいて新しい方針や慣行を採用し続け、他の企業がそれに合わせることを求めるようになると予想される。



休暇と健康面

パンデミック中のスタッフの功労に報いて、追加の有給休暇を付与した著名企業もあった。これはメディアの注目を集めたが、まだ広く導入されてはいない。2021年もしくは2022年に全社的な有給休暇の追加を実施した回答者はおらず、検討しているのはわずか3%であった。同様に、4分の1以上の企業が、従業員が仕事から離れる(リモートアクセスをオフにする)ことについての規定導入を検討しているにも関わらず、実際導入しているのはわずか3%にとどまる。

これらの結果は、健康面の取り組みに関する質問の結果とは大きく異なる。調査結果によると、この分野は雇用主にとって益々注目されてきているようだ。アンケート回答者の5人に4人(79%)が、従業員の健康面へのサポートを強化している。回答者から寄せられたコメントによると、企業がいかに従業員の健康面を重視し、意識を拡大しているかが分かる。その中には、現場での情報提供、話し合いやサポートグループ、マッサージやカウンセリングなどのサービスが含まれる。


結論

パンデミックや過去18ヶ月間に起こった大きな出来事(Black Lives Matter運動など)によって雇用主に強いられる変化や、職場における政治的見解の影響が大きくなったことに加えて、企業は自らが何者であり、何を支持しているのかをより深く考え、その価値観に合った規定や慣行を採用するようになってきている。企業が、従業員や顧客は自分たちの理想を反映したブランドと関わりたいと考えていることに気づいたことにより、この傾向は益々強まっていると考えられる。才能ある人材を求めて大手ブランドと競争したいと考えている企業は、自らが追いつかなければならないと思うかもしれない。中には市場で目立つような規定を採用し、先手を打つことを考える企業もあるだろう。雇用法改正への圧力は消えるどころかむしろ高まっているが、多くの企業が独自の道を歩んでいるように思う。


もし特定のケースにおいて、具体的なアドバイスが必要な場合はLewisSilkinLLP法律事務所のAbi.Frederick@lewissilkin.comまたはkoichiro.nakada@lewissilkin.comまで、ご連絡をお願い致します。