Jan 2022 -階級別賃金格差報告:雇用主のための社会移動ツールとは?

雇用法において、変革を推進する手段として透明性を謳う傾向が益々強まっている。階級別の賃金格差の報告義務は必須ではないが、本記事では、職場における社会移動に対する不利益や雇用主が考慮すべき法的・実務的問題の解明に対処する手段として、この領域において自主的に報告する企業が増加している背景を考察する。


階級別賃金格差報告の背景

近年、男女間の賃金格差の報告義務化CEO給与比率の報告義務化など、職場における不平等を解消するための政府の様々な動きが出ている。民族間賃金格差報告の義務化の声も高まっているが、政府はまだその計画を打ち出していない

2019年、労働組合協議会は「組織内差別」に対処するため、階級別賃金格差の報告義務化を求めた。この政策は、労働党の2019年総選挙マニフェストにも掲載された。現政権は、企業に階級別賃金格差の報告を義務付けるための法制化を予定していないが、今後ますます注目される分野となりそうだ。

一方、職場の階級別賃金格差の測定と分析に対し独自の対策を講じ始めている雇用主もいる。


階級別賃金格差報告とは?

階級別賃金格差報告には、職場において社会経済的地位の低い従業員の平均的賃金と社会経済的地位の高い従業員の平均的賃金比較が含まれている。

階級別賃金格差報告における社会経済的地位の定義

階級や社会経済的地位を定義することは非常に困難である。労働者階級とは何を意味するのか?中流階級とは何を意味するのか?どこで区別するのか?下の表で考えてみることにする。

シナリオ中学・高校時点での親の職業親の学歴・資格中学・高校の学校種別
 1一般的職業特に無し公立
 2一般的職業特に無し私立(奨学金による)
 3一般的職業特に無し私立(奨学金によらない)
 4一般的職業修士/博士号公立
 5一般的職業修士/博士号私立(奨学金による)
 6一般的職業修士/博士号私立(奨学金によらない)
 7会社取締役特に無し公立
 8会社取締役特に無し私立(奨学金による)
 9会社取締役特に無し私立(奨学金によらない)
 10会社取締役修士/博士号公立
 11会社取締役修士/博士号私立(奨学金による)
 12会社取締役修士/博士号私立(奨学金によらない)

多くの人が、シナリオ1の人は恐らく労働者階級で、シナリオ12の人は恐らく労働者階級ではないということに同意するだろう。しかし、シナリオ2〜11についてはどうだろうか。その区別は難しく、人それぞれ意見が異なる可能性がある。「階級 」は非常に主観的なものである。

社会経済的地位を識別する主な指標

この不確実性を取り除く為に政府のSocial Mobility Commission が発表している方法(ツールキット)としては、社会経済的地位の主な識別指標として、14歳時点での親の職業を採用することを提案している。親の職業は9つのカテゴリーに分類され、さらに労働者階級・中産階級・専門職の3つのグループに統合整理される。

ツールキットによると、上記質問は一般的に回答率が高く、あらゆる国籍の人が利用でき且つ高い予測結果を出せるという。これらの理由から、Social Mobility Commissionは、この社会移動のデータポイントを雇用主に最も優先させることを推奨している。(他の3つの重要な社会移動のデータポイントとしては、親の最終学歴・資格、11~16歳で通った学校種別、無料学校給食の受給資格の有無が挙げられる。)


階級別賃金格差報告におけるデータの意義

どんな分析も、その背後にあるデータがあってこそのものである。大規模で完成されたデータセットは、組織にとって有益となり得る。小さく不完全なデータでは意味がない。

社会移動についてデータ主導のアプローチを取ろうとする雇用主は、データ収集に最も注力すべきであり、従業員からの回答率は少なくとも70%を目標とすべきである。(ただし、不完全なデータセットでは分析に問題が生じるため100%に近い方が理想的である。)


階級別賃金格差報告および採用活動

階級別賃金格差報告は、ある特定の職場にいる従業員の差しか示さないであろう。多くの社会経済的地位が低い人々にとっては、そもそも高価値の職に就くこと自体が課題なのだ。企業は、どのようにすればそういった人々が直面しそうな障害を特定できるのだろうか?

ここでもデータが重要だ。雇用主は、応募者の社会移動の特性を知る必要があり、プロセスの各段階における階級の多様性を測定する必要がある。特定の社会経済的地位が、他よりも大きな影響を受けている部分があるかもしれない。

例えば、家系初の大学卒である応募者は、親が大卒で進路のヒントを得られやすい環境の応募者よりもスコアが低いかもしれない。このような場合は、雇用主は応募者に提供する情報を見直し、応募書類に何を求めているかをより明確に示すことが出来る。

また、面接のプロセスにおいて、ある社会階級グループが他のグループと比べより影響を及ぼしていたことがデータ上示されている場合なども考えられる。この場合、雇用主は面接官にガイダンスを与え、より公平な面接プロセスの確保を検討することが出来る。


階級別賃金格差の回帰分析

社会経済的地位や「階級」は多くの異なる要因の産物であるため、グループ間の違いを理解しようとすることは困難である。Social Mobility Commissionは、親の職業が有用な指標になることを示しているが、社会経済的な「要因」が異なれば職場によって影響が異なる可能性がある。

職場の階級を本当に知りたいという雇用主には、より高度な分析が有効かもしれない。回帰分析では、社会経済的地位に関連する各要素(親の職業、親の学歴・資格、住居、通っていた学校、無料学校給食の受給資格)をすべて同時に分析することが可能である。これにより、雇用主は各要素が賃金に与える影響を理解することができる。その結果、特定の職場では、親の職業などの要因よりも通っている学校の種別の方が給与の予測因子として大きいことが分かるかもしれない。この情報があれば、雇用主はこの問題に取り組むために、より的を絞った多様性イニシアティブを展開することができる。例えば、雇用主は、あまり代表的でない学校や大学にも手を伸ばすことで、候補者の幅を広げることができる。


クラス別賃金格差報告に関するコメント

近年、仕事における社会移動の不利益がより注目されている。社会移動の障壁を取り除くことは、政治家が取り組みたいことの一つとなっている。経済的なメリットは非常に大きく、政府の「平準化」課題の一部でもある。政府からの何らかの支援も可能であり、雇用主はその取り組みについて社会移動指標に評価アメスメントの提出を検討するかもしれない。

それは決して簡単ではないが、階級別賃金格差の報告は、雇用主が職場における社会移動の不利益問題に取り組むために定期的に行動を起こし、これまで手つかずだった人材プールにアクセスできるようにするという貴重な役割を果たす可能性がある。


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