May 2016 – 雇用者はどの程度の従業員の個人情報に関与できるか?


雇用上訴審判所は(EAT)は、雇用者が懲戒の目的のために警察が犯罪捜査の過程で押収した証拠を用いたとしても、ヨーロッパ人権条約の第8条に抵触しないと判断した。

個人生活という観点から鑑みると第8条の範疇に入る可能性は広がるのではあるが、雇用上訴審判所は従業員が通常期待するようなプライバシーというのは、ケース・バイ・ケースの事実関係に依拠するとした。

最近のGaramukanwa と Solent NHSのケース「2015」によると、雇用審判所は、従業員の行動によって職場の問題になってしまったことでの同僚との個人的な関係についての証拠に関連して、従業員は、通常期待されるようなプライバシーの権利を持つことが出来なかったという判断を確認した。

しかしながら、このケースの中での懸念事柄は、警察に拠って提供された証拠が、雇用主の調査とその従業員を解雇することを導くことにある。その判断は、例えば雇用者はそのような情報に依拠することが許されて良いのかというような疑問を投げかける。

このケースの場合、Mr Garamukanwa(Mr G)はSolent NHS Trustに医療従事者のマネジャーとして雇用されていた。女性看護師のMaclean (M)がMr Gとの関係を終わらせたとき、Mr Gは彼女が同じ病棟で働く医療補助スタッフMs Smith(Ms S)との交際を始めたのではないかと疑い始めた。

Mr G は脅迫的なメールを送り、その内容は彼らの上司のMr Brownに2人の関係を知らせるべきである、さもなければ自分がそれをするという内容であった。

このことがあってまもなく無署名で彼らの関係について書かれた手紙がSolent NHS Trust送られたり、他に偽のFacebookを作成しそのページに約150名のSolent NHS Trustの従業員の名前を入れた上でM and Ms SにSolent NHS TrustからM and Ms Sの関係についてのメッセージが送られた。Maclean (M)はthe Trustの従業員を含む不快な内容を持つコメントのメールを受け取ったあと警察にこのことを届け出た。

Solent NHS Trustは、マネジャーのMs Burton (Ms B) に、Mr Gが有給の停職中を命じられている間にこの事件の調査をするように指示した。Ms Bは警察と会い、彼らに提供された証拠について話し合いを持ち、警察からMr Gの携帯に残されていた写真のコピーも受け取った。

懲戒手続きの聴聞会の後、Mr Gは重大な不行跡があったということで即時解雇された。解雇を言い渡したオフィサーは、押収された写真をMr Gに悪質なメールの責任があるという事を裏付ける証拠として採用した。

この解雇を受けてのMr Gの組織内でのアピールは不成功に終わったので、彼はいくつかのクレームで労働審判所に提訴した。その中のひとつはSolent NHS Trustはヨーロッパ人権条約のなかの第8条の個人生活を尊重する権利の侵害があったというものである。それは基本的な個人生活に関する事柄の調査とそれに関連する証拠を使用して、彼の解雇を正当化しようとすることは違法であるという主張であった。

労働審判所は、始めから第8条違反はないという立場を維持した。なぜならば、Mr Gは、匿名でこのメールを送信し、これらのメールは職場の仕事上のメールアドレスに送られ、これらは仕事に関する一部として取り扱われたのであり、このケースでM and Ms Sへのインパクトは、彼らの精神面にも影響を与え そして、これが負の要素となって彼らの職場での業務遂行能力に影響したからである。

労働上訴審判所はMr Gのクレームと上訴請求を棄却した。この上訴は、労働審判所がこのケースについてヨーロッパ人権条約の第8条について正当な評価をしたかどうか、という問題に限定されたものである。

従業員に対する懲戒手続きを行うときは細心の注意と正当な手順を踏まなければならない。公正な手続きを取ることはもちろん、事実と証拠に関して十分な調査が行われなければならない。

上記の記事に関するご質問は、弁護士中田浩一郎koichiro.nakada@philipross.com又は英国弁護士中田陽子yoko.nakada@philipross.com までご連絡をお願いいたします。