Sept 2014 – 従業員が精神的苦痛を受けたとき

従業員が雇用者によって精神的苦痛を受けたという申し立て対して雇用審判所がどの程度の損害賠償を認めるかはなかなか難しい問題である。損害賠償の金額は、数千ポンドなのか、あるいは数万ポンドなのか?この金額は、精神的苦痛から回復するために長期休暇を取るために必要な金額だろうか?これらは、それぞれのケースの事実関係の相違も大きな要因になることは疑いないが、最近のケースThe Cadogan Hotel 事件において、雇用上訴審判所は、女性として性差別を受けたと主張する従業員に雇用審判所が過大な賠償金額を認定したかどうかを再審理した。

本件の申し立て人のMs Ozogは、ロンドンにあるCadogan Hotelでウェイトレスとして雇用されていた。彼女が就労して6ヶ月目に新しく採用された男性のウェイターが同じ職場に入ってきたが、彼は不適切な行動をとり始めた。彼女の腕にキスをしたり、背中にタッチしたり、その上ボーイフレンドがいるかどうかとか、挙句の果ては、自分の腰のベルトを外して「俺の身体が欲しくない?」「女ならそう思って当然だよ!」「えっそうだろう」などと、もう一人の女性の同僚の前で言ったりした。これは「ベルト事件」として知られている。雇用審判所は、これらの言動を事実として認定した。

The Equality Act 2010は、差別に対する損害賠償を規定し、これに精神的苦痛に対する損害賠償が含まれるとする。しかしながら、それらの金額の査定に関しては具体的な指標が示されていない。従って、損害賠償の金額が一体いくらになるのか?ということが議論になる。このような場合、雇用審判所は、過去の判例を参考にしなければならない。Vento v Chief Constable of West Yorkshire Police [2002]のケースは、その指標を示している。

第一審の雇用審判所は、申し立て人であるVentoの主張と相手方の行動に焦点を当て、損害賠償の金額を£10,000と認定した。これは申し立て人である従業員が受けた精神的苦痛に目を向け、彼女が感情的に非常に不快であったということに対する慰謝という視点で判断をしたものであるが、それ以上の検討ななかった。

Ventoの事件で示された損害賠償の金額に関する判断の中で、どこに精神的苦痛のポイントを置くか法律的には大変興味があるが、雇用審判所の判断は、Ms Ozogの腕にキスをすることや身体に触れること自体が彼女を不快にする軽微なセクシャルハラスメントであったと認めた。しかしながら「ベルト事件」は、明らかに女性蔑視であり、重大なハラスメントであって彼女をひどく傷つけたと考えた。それでは、損害賠償金額はいくらが妥当なのか?雇用審判所は、このケースで、精神的に深く傷ついた現実は£10,000に相当すると考えた。

このケースでは、Acas Codeを遵守しなかったことが手続的に不当であるとの主張があったために雇用審判所は上記の金額に25%の損害賠償を上乗せした。しかしながら、雇用上訴審判所はこの判決を覆し、これらの申し立ては雇用審判所で適切な証拠によって裏付された事実ではなく、雇用審判手続きにおいて単に口頭で述べられただけの事実であると判断して、Acas Codeを遵守しなかったことによる25%の上乗せの判断を否定した。

雇用上訴審判所は、その審判を下すときにVENTOのケースで示された損害賠償の認定の幅の低い方に認定することに困難を感じたが、Cadogan Hotelの事件では、賠償金額の幅の最高額とすることが妥当であるとして損害補償£6,000に10%の上乗せをした金額を認定した。この上乗せはSimmons v Castle and Others [2012]の例に倣ったものであり、最終的な損害賠償の金額は、£6,600がMs Ozogに支払われた。

雇用審判所のすべての判断は、個々のケースの事実関係に拠るところが大きいが、今回のケースの教訓は、雇用者は、社内に苦情申し立てと懲戒に関する適切な手続きが整備されている否かを検証することである。