
Mar 2026 – 雇用権利法:解雇と再雇用規制は実務上どのように適用されるのか

2025年に成立した英国の「2025年雇用権法(Employment Rights Act 2025)」は、いわゆる「解雇と再雇用(fire and rehire)」という物議を醸してきた慣行を制限することを目的としている。最近開始された政府のコンサルテーションにより、政府の計画がどのような範囲に及ぶ可能性があるのか、その一端が明らかになってき た。
当初の雇用権法案では、従業員の同意なくあらゆる契約条件を変更するための解雇を禁止する内容であった。しかし、議会審議を経る中で規制は一部緩和され、現在は「中核的契約条件」の変更に起因する解雇に限定して禁止される見込みである。

Fire and Rehireとは何か
「Fire and rehire」とは、従業員を一度解雇し、その後新たな契約条件で再雇用する手法を指す略語である。
この用語には一般的に、「fire and replace(入れ替える)」、すなわち解雇後に別の人物を雇用するというケースも含まれる。
現行法上、この手法は、雇用主が解雇の正当な理由(通常は「その他の相当な理由」の範疇に該当するもの)を立証できる場合には合法である。
多くの雇用主にとって、この手法は従業員の契約条件変更を押し通すための最終手段としてのみ用いられる。特に、合理的な協議プロセスを経ても従業員の同意が得られない場合に限り検討されるのが通常である。
実務上、ほとんどの雇用主はまず、従業員との変更内容についての合意形成を目指す。強行的な条件変更は労使関係に悪影響を及ぼす可能性があるため、慎重なコミュニケーション、交渉、インセンティブ提示の方が、単に変更を強制するよりもはるかに良い結果をもたらす傾向がある。
実際には、「解雇と再雇用」は頻繁に用いられる手法ではないが、今回の法改正は、将来的に契約条項を更新・現代化することがどれほど容易になるかに影響を与えるため、依然として重要である。これらの変更は、より多くの権限を従業員側に移すものとなる。
どのような変更が行われるか?
特定の重要な契約条件(「制限付き変更」と呼ばれる)を課すための解雇は、その理由が(a)従業員がこれらの変更に同意しなかったこと、または(b)実質的に同じ職務を遂行するために、変更後の条件で別の人を雇用するためである場合、自動的に不当解雇とみなされる。
これらの理由に基づく自動的不当解雇の申し立てを行うにあたり、勤続年数の要件は設けられず、(2027年1月1日以降)従業員は上限のない補償金の請求、あるいは(場合によっては)元の条件での復職または再雇用を求めることができるようになる。
「制限付き変更」とは何か?
制限付き変更には、従業員の契約上の以下の事項の変更が含まれる:
- 賃金(詳細は後述)
- 所定労働時間
- 年金
- シフトの時間帯および時間数(詳細は後述)
- 休暇関連の権利
- 規則で定義されるその他の変更
既存の従業員に対して、雇用主が上記の変更のいずれかを一方的に行うことを認める新たな柔軟性条項を課すことも、制限の対象となる。
なお、契約外の要素については引き続き変更可能である。例えば、完全裁量制の休暇制度を廃止することは、契約上の権利でなければ可能である。
給与や勤務シフトのどのような変更が制限されるのか?
経費および現物給付
このコンサルテーションによると、政府の現時点での優先案は、経費および現物給付を制限対象から除外することである。この場合、それらの変更を目的とする解雇は自動的に不当解雇とはみなされなくなる。もっとも、雇用主には依然として解雇の正当な理由が必要となる。
例)
ある大手テクノロジー企業では、顧客からのオンライン営業会議の需要が高まり、営業マネジャーが顧客先を訪問する必要性が大幅に減少した。利益率も圧迫されているため、同社は人員削減を検討する前に経費削減を図る方針だ。そこで、現在契約上の福利厚生として認められている営業マネジャー全員の社用車私用利用を廃止することを提案した。
営業マネジャーたちはこの変更に同意せず、多くの者が、高級社用車を利用できるという契約上の権利を、職務上の特典であり、報酬パッケージ全体における重要な要素であると捉えていた。会社は、電気自動車制度の導入などの代替案を検討したものの、営業マネジャーたちの不満は解消されなかった。十分な協議プロセスを経た上で、会社は最終的に営業マネジャーたちを解雇したが、直ちに条件を見直した形で再雇用を申し出た。
今回の変更は契約上の福利厚生に関わるものであるため、政府が推奨する案が実施されたとしても、この解雇は自動的に不当解雇とはみなされない。営業マネジャーらは依然として通常の不当解雇訴訟を提起することは可能だが、雇用主側は解雇に正当な理由があったと主張できる(これについては後述する)。
政府が検討しているもう一つの選択肢は、除外対象から持株制度、旅費および宿泊費を切り離し対象外とすることであり、これらは引き続き制限付きの措置として扱われることになる、というものである。
政府は、どの費用および福利厚生(もしあれば)を制限対象とすべきかについて意見を求めており、その範囲には、例えばビジネスクラス利用の上限引下げや、役職に付随して提供される宿泊施設の提供撤廃といった変更が含まれ得る。

勤務シフトのパターン
政府が意見を求めているもう一つの分野は、契約上の勤務シフトの変更を制限すべきかどうかという点である。政府は、企業が顧客の需要や状況の変化に対応するために、勤務シフトの調整を正当な理由として必要とする場合があることを認識している。一方で、シフト時間のわずかな変更であっても、従業員に大きな影響を与える可能性がある。
政府は、昼勤から夜勤への変更を制限することを優先案として示しており、平日勤務から週末勤務への変更についても制限される予定である。
例)
ある製造会社は、月曜日から金曜日までの週5日勤務体制を採用している。同社は重要な新規顧客を獲得し、需要に対応するため、全従業員を対象に週7日勤務体制を導入する必要が生じた。従業員の一人は幼い子供を抱えており、週末勤務が義務付けられるようでは仕事を続けられないとして、この変更案に反対した。雇用主は週末勤務に対して割増賃金を提示したが、従業員は依然として不満を抱いていた。
政府が優先案を推進した場合、この週末勤務への変更は「制限付き変更」とみなされ、解雇は自動的に不当解雇となる。
自動的に制限されない変更についてはどうか?
制限対象外の契約変更を課すために従業員を解雇しその後再雇用した場合、その解雇は自動的に不当解雇とはみなされない。
これには、勤務地や職務内容など、政府が「非中核的」とみなす契約条項の変更が含まれる。
そのような解雇が正当か否かは、依然として通常の不当解雇の判断基準に基づいて判断される。ただし、同法は、雇用審判所に対し、変更の理由、個別または集団的な協議の有無、および変更の見返りとして従業員に提示された条件などを考慮するよう求めている。したがって、過去には合法とされていた変更であっても、現在では違法とみなされる可能性がある。
例)
ある広告代理店が、社内再編の一環として、フロント業務および事務サポート業務の効率化を図ろうとしている。これに伴い、受付担当チームは、事務調整業務を追加で担うことになる。役職名は「受付係」から「事務コーディネーター」に変更されるが、給与、勤務時間、その他の契約条件は変更されない。短い協議期間を経て、受付係全員が変更に反対し、最終的に解雇された。
役職名や職務内容の変更は、制限付き変更には該当しない。しかし、雇用審判所では、変更の理由や、受付担当者の同意と引き換えに何らの見返りも提示されなかったという事実を考慮する必要がある。また、協議の質、すなわちこの代理店が異議に真摯に向き合い、代替案を検討したかどうかも考慮される。したがって、この解雇は依然として不当解雇とみなされる可能性がある。
変更はいつ行われるのか?
当初は本年後半に施行される予定であったが、「解雇して再雇用する」手法に対する規制は、2027年1月に施行されることとなった。また、(非中核的契約条件の変更に関する)通常の不当解雇請求に対する保護強化も、同時期に施行される予定である。
雇用主はどのように備えるべきか?
雇用主が今から準備できる対策はいくつかある。
- 契約書の点検:
契約書に勤務シフトについてどのような記載があるか、また固定的な勤務パターンが明示されているかを確認することが必要である。また、契約上の経費・福利厚生に関する条項がどのようになっているかを把握することも重要である。 - 業務慣行の見直し:
実際にどのようなシフト体制が運用されているのか、またそれが現時点でも事業上のニーズに合致しているかを検討すべきである。 - 「解雇と再雇用」を(これまで以上に)慎重に実施:
改正が2027年まで実施されないとはいえ、現状において「解雇して再雇用」の手法は極めて物議を醸すものである。これらの改正が目前に迫っている今、評判を損なうリスクはさらに高まっている。 - 変更を実現するための他の方法に注力:
「解雇して再雇用」が“最後の手段”であることを示すため、雇用審判所ではこの点を立証することにより重点が置かれるようになると思われる。したがって、従業員との交渉やインセンティブ付与など、他の手段によって変更の実現を試みたことを立証することが益々重要となる。そのため、従業員が変更に同意しないだろうと安易に決めつけ、即座に解雇・再雇用のプロセスに踏み切ることは避けるべきである。
(※本記事は、英語原文を日本語に翻訳したものです。)
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