
May 2026 – 職場における男女別施設-最新の動向

最近の高等裁判所の判決を受け、トランスジェンダーの従業員による男女別施設の利用に関する見解と、雇用主が選択できる実務上の選択肢について解説する。

高等裁判所は、健康・安全要件を満たすために、雇用主は職場の男女別トイレおよび更衣室を生物学的性別に基づいて提供する必要があると判断した。一方で、トランスジェンダーの従業員が、適切かつ差別のない施設を利用できない状態に置かれてはならないことも明確にしている。これには、トランスジェンダーに配慮した追加の男女別施設の提供(ただし現時点では検証されていない)や、健康・安全要件を満たす範囲でのジェンダーニュートラル施設の提供が含まれ得る。
背景
今年初めに最高裁が「For Women Scotland」事件について下した判決を受け、企業はトランスジェンダー従業員が単一性別スペースを利用することについて、どのように対応すべきかに関する更なる指針を待ち望んでいた。従来、トランスジェンダーの人々は自身の性自認に合致する単一性別スペースを利用できるべきであるというのが一般的な理解であったが、最高裁が「2010年平等法」の文脈において「性別」には生物学的な意味があると判断したことで、不透明感が生じることとなった。
こうした不確実性が生じた理由の一つは、『平等法』が職場における男女別施設について明示的に規定していない点にある。これらは、別個の法令である『1992年職場(健康・安全・福祉)規則』により定められているが、同規則は「男性」および「女性」の意味について言及していない。
このため、従業員からの差別に関する申し立てを避けるために、雇用主がどのような施設を提供すべきかについて、広範な議論が巻き起こった。申し立ては、トランスジェンダーの従業員(自身の性自認に基づく施設の利用が妨げられていると主張する)から行われる場合もあれば、トランスジェンダーではない従業員(トランスジェンダーの従業員に利用が許可されているにもかかわらず、雇用主が男女別々の施設を提供していないと主張する)から行われる場合もある。
高等裁判所の判決に先立つ最近の判例動向
高等裁判所の判決に先立ち、職場におけるトランスジェンダーの従業員による単一性別の施設の利用をめぐる異議申し立てについて、雇用審判所による一連の判決が相次いで下された。Peggie、Kelly、Hutchisonの各事件はいずれも同様の問題を審理したが、職場内の単一性別のスペースについて雇用主がどのように扱うべきかという点において、極めて異なる結論に達した。
例えば、PeggieおよびKellyの事件では、女性用スペースを生物学的(すなわちシス)女性のみに限定する必要はないとされた一方で、Hutchisonの事件ではこれと正反対の判断が示されている。このように判断が一致していなかったことから、企業にとっては実務上どのように対応すべきかが非常に分かりにくい状況であったといえる。
その後に示された高等裁判所の判断は、こうした状況を踏まえた上での重要な指針となるものであり、今後は雇用審判所の判断もこれに沿う形になることが想定される。

高等裁判所の判決
高等裁判所は、健康・安全規則における「男性」および「女性」という用語は、生物学的性別に基づいて解釈すべきであると判断した。これは、従業員が性別認定証明書を持っている場合であっても同様である。
この結果、雇用主が労働安全衛生規則に基づき設置する男女別施設については、生物学的性別に基づいて運用する必要があることになる。つまり、トランスジェンダーの人が自身の性自認に基づいた施設を利用してはならない。なぜなら、そうすることでその施設はもはや男女別施設とは言えなくなるからである。
しかし、高等裁判所は、健康・安全規則の要件は「最低基準」であり、「上限」ではないと指摘した。すなわち、この最低基準を満たせば、雇用主は従業員のニーズに対応するために追加の措置を講じることができる。
例えば、性別中立化することなく、トランスジェンダーに配慮した追加の単一性別施設を設けることも考えられる。具体的には、シスジェンダー男性は利用できないがトランス女性は利用可能な女性用トイレなどである。
また、雇用主としては、男女別施設に加え、少なくとも一部のジェンダーニュートラルな施設を提供することが合理的である可能性が高い。ただし、それらが「健康・安全規則」の要件を満たしていることが条件となる。
さらに重要なのは、高等裁判所が、トランスジェンダーの人に対して生物学的性別に基づく施設の利用を強制すべきではないとの判断を示した点である。雇用主は、トイレの設置・管理において、性別適合を理由としたトランスジェンダーの人々への差別が生じないようにしなければならないことを明確にした。
具体的にどのような対応が最適であるかは、企業の施設や従業員構成によって異なるため、それぞれの実情に応じて検討することが求められる。
以下では、雇用主が選択しうる主な実務上の選択肢と、その際に留意すべき点について説明する。
職場トイレに関する実務上の選択肢
| 生物学的性別による単一性別のみ | 健康・安全規則への適合という点では問題ない可能性があるが、性別適合者に対する差別のリスクが生じやすい。高等裁判所は、トランスジェンダーの人々が生物学的性別に基づくトイレを使用することを強制されるべきではないと明確に判断している。 |
| 生物学的単一性別+バリアフリートイレ(ジェンダーニュートラル) | これは多くの雇用主にとって現実的な選択肢であり、高等裁判所の判決も、これが実行可能な選択肢であることを示唆している。雇用主に対しては、このアプローチが障害を持つ従業員に与える潜在的な影響(彼らにとって既存の設備が不十分になる可能性があること)や、トランスジェンダーの同僚の性別を公に暴露してしまうリスクについて検討するよう推奨する。これらはいずれも、差別につながるリスクを伴う。 |
| 生物学的単一性別+ジェンダーニュートラル施設(バリアフリートイレに加えて設置) | 施設の事情が許す限り、これは賢明な選択肢であると思われる。これにより、トランスジェンダーの同僚が「カミングアウト」を余儀なくされるリスクを軽減できるほか、障害のある同僚への潜在的な影響も軽減できる。 |
| 完全ジェンダーニュートラル | 関連する要件を満たしている限り、これは労働安全衛生規則に準拠している。ただし、雇用主は、これが間接的な性差別につながる可能性がないか検討する必要がある。 |

どの選択肢が最適かは、雇用主の事業所や従業員構成によって異なるが、判例からわかることは、雇用主は(特定のグループだけに焦点を当てるのではなく)、影響を受けるすべての従業員の権利に配慮し、取るべき対応を慎重に検討すべきということである。
企業にとっての重要なポイント
このテーマは依然として不確実性が多く、個々の事例によって状況が大きく異なるものの、現時点で明らかになっている内容と、雇用主に推奨される対応を以下に整理する。
- 現在、職場における男女別施設に関してトランスジェンダーに配慮した方針を採用することには、明らかな法的リスクが伴う。
- これは、トランスジェンダーの人々が生物学的性別に沿ったトイレを使用することを義務付けられるべきだという意味ではない。雇用主は、トランスジェンダーの人々も利用可能な、男女別の追加のトイレを設置できないか検討してもよいであろう(あるいは、そうすべきかもしれない)。
- 雇用主は、健康安全規則の要件を満たすことを条件に、追加の(あるいは専用の)ジェンダーニュートラルなトイレを設置することも可能。
- また、雇用主はトイレの設置を検討する際、特にジェンダーニュートラルな施設については、ノンバイナリーの従業員に対する包摂性にも配慮することが望まれる。
- 雇用主は、障害のある従業員に対する配慮について検討すべきである。バリアフリートイレが、さらに「トランスジェンダーを含むトイレ」として再指定された場合、それを必要とするすべての人にとって十分な措置となるだろうか?
- 各拠点において何が可能かを把握できるよう、雇用主には施設の点検を強くお勧めする。
- 多くの場合、施設設備は雇用主だけで完全に管理できるものではない。そのため、ビル管理会社や施設提供者に対し、設備に関する意思決定へ関与できるよう働きかけることも検討すべきである。
- また、影響評価を実施し、従業員全体のニーズと、変更による影響を十分に検討したことを確認することも有効である。
これまでの判例から明らかになっているのは、雇用主は特定のグループだけを優先するのではなく、全ての従業員のニーズを考慮すべきである、という点である。
雇用主としては、多様な従業員のニーズを十分に考慮し、可能な限りの配慮を行っていること、そして保護特性に基づく差別を回避する義務を果たしていることを示せる状態にあることが重要である。
全ての従業員が安心して自分らしく働き、ハラスメントのない職場環境を実現しようとする中で、この分野における緊張感は今後も続くものと見られる。
(※本記事は、英語原文を日本語に翻訳したものです。)
特定のケースにおいて具体的なアドバイスが必要な場合は、Lewis Silkin LLP法律事務所の Abi Frederick弁護士Abi.Frederick@lewissilkin.com まで、ご連絡をお願いいたします。


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