Nov 2020 – ロックダウンと在宅勤務 – 雇用主は従業員を監視できるか?

この記事では、雇用主が従業員の監視を望む場合の法的に留意すべき事項と、雇用主が従業員のワークライフバランスをどのように確保したら良いか?について説明する。

英国政府が11月5日(木)から始まる全国ロックダウンを発表してから、雇用主は、それが職場にとってどのようなことを意味するかを理解するために法律面の詳細を待っていた。 新しい法律は、「[従業員]が在宅での勤務が現実的に困難もしくは必要業務をすること自体が難しい場合、仕事目的で家を出る、もしくは家の外にいることが合理的に必要であるか」を雇用主が判断しなければならないと規定した。 その結果、雇用主は、特に3月から6月までの前回の全国ロックダウン時にオフィスを閉鎖した場合は、今回も閉鎖しておく必要がある。

従業員が無期限の在宅勤務に直面するにつれて、一部の雇用主は、労働者が何をしているのか正確に把握できず生産性を監視できないことに懸念を感じ始めており、従業員の業務情報を提供できる監視ソフトウェアへの関心が高まっている。


監視はどのように変化し、従業員はどう思うか?

当然のことながら、従業員は在宅勤務中に監視されることを好ましく思っていない。最近の世論調査では、次のことが明らかになった。

  • 80%の従業員は、カメラの監視に不快感を覚えるであろう。
  • 80%の従業員は、キーストローク(キーボード操作)の監視に不快感を覚えるであろう。
  • 48%の従業員は、監視ソフトウェアが上司との関係を損なうだろうと考えている。(若年労働者では62%)

それにも関わらず、英国のある雇用主はすでにソフトウェアを使用して従業員の勤務時間、キーストローク、マウスの動き、およびアクセスしたWebサイトを追跡している。米国では、従業員の業務を監視するソフトウェアの需要が高まっている。技術ウェブサイトは現在、さまざまな監視ソフトウェアをレビューし、色々なタイプのビジネスに適合するようなソフトウェアを推奨している。

しかし、従業員の監視に対する欧州でのアプローチは、アメリカのものとは異なっている。 今年初め、ある英国企業は、従業員が自分のデスクで過ごした時間を追跡するソフトウェアの導入計画を否定的反発を受けたため中止した。さらに、ドイツの規制当局は最近、違法な監視を行ったことが判明した雇用主に対し3,500万ユーロの罰金を科した。


雇用主はスタッフの監視においてどのようにして適切なバランスをとることができるか?

雇用主は、多額の罰金を回避しながら、従業員を監視するかの方法の問題に直面している。従業員を監視することを決定するには、職場環境でのプライバシーに対する従業員の権利を考慮する必要がある。 欧州人権条約の第8条に基づき、公的機関は、通信を含め職場でのある程度のプライバシーを従業員に保証しなければならない。

従業員が問題の通信に関してプライバシーを合理的に期待していた場合、侵害が法律に準拠し且つ比例していたかどうかに関わらず、通常この権利は侵害されることになる。
第8条は公的機関に対し明示的に言及しているが、1998年人権法はそのことについて英国の法律に組み込んでおり、一般に民間部門を含むすべての雇用者に該当している。

しかし、これは英国における従業員の監視にどのような特定の制限が適用されるのかという疑問を残す。 ガイダンスは、英国個人情報保護監督機関(ICO)発行の雇用慣行コードに記載されており、このコードは、雇用主が監視体制の実施を検討している場合の良い慣例構築材料となる。重要なのは、透明性、比例性、合法性の3つの原則に従うことである。 要約すると、雇用主は次のことを行う必要がある。

  • プライバシーの影響の評価を完了し、その監視の目的と根拠、データ自体への悪影響、および緩和策の設定。
  • 監視についてと、それが採用された理由の従業員への通知。
  • 機密データが処理されている場合は、そのことに法的根拠があることの確認。
  • ソフトウェアにアクセスできる人数を制限し、機密性とデータセキュリティについて適切なトレーニングを受けていることを確認。
  • 最も極端な状況(犯罪行為などが疑われる場合など)を除いて、秘密事項の監視は回避すること。

ICOコードは、監視体制の導入法に関する有用なガイダンスを提供しているが、さらに、法的に考慮すべき事項がある。 これらには、雇用主と従業員の間の雇用契約における信頼と信用の相互義務が含まれる。 どちらの当事者も、両者間の信用と信頼関係を壊す可能性のあるような行動をしてはならない。 雇用主が、この義務に違反した場合、従業員は不当な退職強要(constructive dismissal)を主張することができるだけではなく、財務的にも、社会的な評判にも影響を与える可能性がある。 現在、在宅勤務と監視の面に関する判例はない認識していないが、将来発生する可能性がある。


監視が全従業員の健康に与える影響

雇用主はまた、全従業員の健康と、監視が従業員に与えうる影響を慎重に検討する必要がある。 従業員と経営陣との間の信頼が不十分であると従業員が確信している場合、従業員との関係は悪化する可能性がある。 組織が従業員の監視を可能にする新しいテクノロジーに対応・適応するやり方は、従業員の将来的な信頼だけでなく、消費者やより幅広い利害関係者の信頼にも重大な影響を及ぼす。

この分野の初期の調査によると、特に肉体労働で高度に標準化された業務に携わる従業員にとって、監視と見張りは、従業員の管理に関して信頼関係に悪影響を与える可能性がある。

したがって、従業員の意見を早い段階で考慮することは、信頼を維持し文化的損害のリスクを最小限に抑えるために重要である。 軽率な導入は、従業員にストレスを経験させ、パフォーマンスを低下させ、最終的には退職する可能性があり、何年もかかって構築してきたであろう企業文化を破壊しかねない。 これは、従業員が監視技術導入プロセスの一員となり、潜在的なメリットを確認できるようにすれば、組織として回避できる可能性がある。

柔軟な働き方を求めるスタッフの数が増加し、且つ英国で2回目のロックダウンが始まり、監視措置は将来、より妥当なものとなり普及する可能性がある。 雇用主は、家庭と職場のバランスを尊重し、望ましくない法的・風評・および従業員との関係リスクを回避する必要がある。 結局のところ、我々は自宅で仕事をしているかもしれないが、職場で生活しているわけではない。


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