Jul 2026 – 熱波(ヒートウェーブ)への対応がもたらす法的影響

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英国気象庁(Met Office)は先般、イングランド中部・南部およびウェールズに対し、命に関わる危険を示す「赤」の熱波警報(Red Extreme Heat Warning)を発令するという異例の措置を講じた。同庁が熱波に対して最高レベルの警報を発令したのはこれが2度目であり、気温は40℃に達すると予測された。予報では、熱帯夜の継続、交通機関の混乱、そして高齢者や基礎疾患を持つ人々だけでなく、一般市民全体への健康被害も警告されている。このような事態は、今回限りの出来事とは考えにくい。

端的に言えば、英国の夏はもはや「時折暑くなる」程度ではなく、明らかに以前より高温化しているのである。企業の法務担当役員(General Counsel)やコンプライアンス責任者にとって、これほど激しい熱波は、労働安全衛生、雇用法、契約履行など、多岐にわたる法的・規制上・業務上のリスクをもたらす。


労働安全衛生

英国には職場における最高気温の法定上限は設けられていないため、公式に「この温度を超えると就労が不可能になる」といった明確な基準も定められていない。2026年5月には気候変動委員会(Climate Change Committee)が政府に対し、「職場における全国的な最高気温基準の導入を約束すべきである」と勧告した。しかし、現時点では、英国においてそのような最高気温の基準が導入される見込みはない。

もっとも、これは雇用主が暑さ対策を軽視してよいことを意味するものではない。雇用主には依然として勤務時間中、職場に「妥当な」温度環境を確保し、健康および安全に関するリスクを管理する義務が課されている。「妥当」とされる温度は、職場環境、業務内容、従業員の職務によって異なる。雇用主は、極端な気象条件下での勤務や通勤に関する最新のリスク評価を確実に実施し、それらのリスクを最小限に抑えるために、合理的に実行可能なあらゆる措置を講じる必要がある。

リスク評価は、リモート勤務者を含む全従業員を対象としなければならない。その際には、業務の性質、職場環境、作業着や個人用保護具(PPE)などを考慮に入れる必要がある。さらに、暑さに対して脆弱な従業員への配慮も求められる。特に業務の一環として出張がある場合は、出張に伴うリスクについても考慮すべきである。

企業は、猛暑対策を長期的な計画の一部に組み込む必要がある。暑さ対策措置をリスク評価の通常項目として組み込むことにより、雇用主は将来の猛暑に備えることができる。


従業員への影響

英国のインフラは高温環境を前提として設計されていないため、猛暑は通勤や業務遂行の両面で問題を引き起こす可能性がある。

列車の運休、線路の歪みによる速度制限、バス運行の混乱により、通勤者は遅刻したり、職場にたどり着けなくなったりする恐れがある。また、道路舗装も軟化しやすくなり、自動車保険団体AAは路面補修が必要になる可能性を指摘している。そのため、英国気象庁が「業務の進め方や日常生活の習慣に大幅な変更が必要になるだろう」と警告しているのも、驚くことではない。

雇用主は、異常気象時の対応方針を明確に従業員へ周知し、出勤に関する期待事項を確実に理解させる必要がある。こうした連絡は早い段階で行い、実務的かつ曖昧さを排除した内容でなければならない。具体的には、従業員は、出勤が求められるかどうか、在宅勤務が可能かどうか、交通機関が麻痺した場合に誰に連絡すべきか、また出勤できない場合の給与や休暇の取り扱いについて把握しておく必要がある。

熱波の期間中、在宅勤務を推奨する企業もあるが、その場合でも雇用主は在宅勤務に伴うリスクを評価し、適切な対策を講じる必要があるという点で、独自の課題が存在する。また、在宅勤務がすべての従業員にとって安全または容易な選択肢であると決めつけるべきではない。従業員の中には、換気が不十分な住居や、耐え難いほど暑くなる部屋で働いている人もいるかもしれないからだ。

雇用主は、従業員のうち特に脆弱な立場にある人々を含め、さまざまな層がどのような影響を受けるかを考慮する必要がある。暑さは、特に妊娠中の労働者、高齢の従業員、および特定の持病を有する従業員に悪影響を及ぼす可能性がある。極端な暑さの中で、こうした従業員への配慮を欠いた画一的な出勤方針を適用した場合、間接的な差別にあたるか、あるいは合理的な配慮を怠ったものとみなされる可能性がある。

従業員が安全に出社できた場合であっても、雇用主は暑さによる不快感や熱中症などの健康へのリスクをどのように管理すべきかを検討する必要がある。その対策としては、エアコンや扇風機、冷水ディスペンサーの設置、日陰スペースの確保、あるいは厳格な服装規定の緩和などが挙げられる。

在宅勤務者に対しては、自宅に十分な換気や温度管理が可能な業務スペースが確保されているか確認することも有用である。また、従業員に対して暑さ対策や休憩時間を追加で認めるなど、リスク管理のために実施している措置について、改めて周知するよう努めるべきである。

さらに、異常気象下では従業員が追加の負担を抱える可能性もある。例えば、学校が早退や休校となった場合、育児を担う従業員は急遽預け先を探さなければならない状況に直面する可能性がある。このような場合、従業員は年次有給休暇や被扶養者のための無給休暇などの制度を利用する可能性がある。ただし、被扶養者休暇は、本来的には継続的な育児支援というよりは緊急事態に対処することを目的としているため、雇用主は、繰り返し発生する、あるいは長期化する気象現象への対応方針を事前に検討しておく必要がある。


イベント中止への影響

ウィンブルドン選手権、音楽フェスティバル、ロイヤルアスコット、ノッティングヒル・カーニバルなど、英国の夏のイベントカレンダーは天候に左右される。しかし、猛暑により、イベントの中止や規模短縮、あるいは緊急措置が余儀なくされることがあり、その結果として契約上および規制上の問題が連鎖的に発生する可能性がある。

イベント主催者にとって、契約上の位置付けを精査することは極めて重要である。不可抗力条項(Force Majeure Clause)の多くは、暴風雨、洪水、パンデミックなどを想定して作成されているが、猛暑を明示的に対象としていない場合が少なくない。熱波が「合理的な支配を超える事象」に該当するか否かは、契約条項の文言および具体的状況によって判断される。


契約履行への影響

猛暑はさまざまな形でサプライチェーンに支障をきたす。つまり、輸送網の運行が遅延や停止、電力網への負荷増大、また、製造業の生産量やデータセンターの稼働時間に悪影響を及ぼす恐れがある。英国気象庁によると、現在の熱波においては、「熱に敏感なシステムや機器の故障リスクが高く、その結果、電力その他の重要サービス(水道、電気、ガス、携帯電話サービスなど)が停止する重大な恐れがある」と指摘している。

固定された納期やサービスレベル契約(SLA)を有する企業は、異常高温が契約上の義務履行にどのような影響を及ぼすかを検証する必要がある。熱波によって契約の履行が不可能または遅延した場合、サプライヤーは不可抗力条項による免責を主張する可能性がある。しかし、その主張が認められるか否かは、契約条項の文言、熱波と義務不履行との因果関係、および通知義務の履行状況や損害軽減措置の要件が満たされているかどうかにかかっている。


熱波はもはや例外的な自然現象ではない。英国の夏には繰り返し発生する現象となっており、それに伴う法的・商業的影響も今後さらに深刻化していくことが予想される。企業は、このような極端な気象に備えて事前に計画を立てておく必要がある。

(※本記事は、英語原文を日本語に翻訳したものです。)


上記についてご質問がある場合、あるいは職場での猛暑への対処方法や契約への影響についてご不明な点がございましたら、Lewis Silkin LLP法律事務所の  Abi Frederick弁護士Abi.Frederick@lewissilkin.com までお気軽にお問い合わせください。

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