Oct 2025 – 雇用権利法案:我々がまだ知らないこととは?

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雇用権利法案は、英国の雇用法に抜本的な改革をもたらすと約束しているが、多くの重要な詳細は依然として不透明なままである。本記事では、企業にとって特に重要となる7つの不確定要素と、それがもたらす影響、そして今後の見通しについて解説する。


雇用権利法案(ERB:The Employment Rights Bill)は今週、議会に再提出される予定であり、さらなる審議と討論が行われる。上院では「不当解雇に対する入社初日からの権利」に関する修正案を含む、複数の重要な修正案を提案している。下院は、これらの修正案のうちどれ(もしあれば)を受け入れるかを検討する必要がある。

最終案が合意されれば、雇用権利法案は国王の裁可を受けて「雇用権利法(Employment Rights Act)」として成立する。ただし、多くの条項は少なくとも2026年まで施行されず、一部は2027年まで延期される見込みである。そのため、雇用主は長期にわたる不確実性に直面し、今後の動向を注意深く見守る必要がある。

本記事では、雇用権利法案が言及していない、あるいは非常に大まかな記述に留まっている7つの分野を指摘する。これらの点に関する明確な情報が欠如しているため、雇用主は今後の変更に備えるための十分な準備ができない状況にある。


1. 不当解雇に対する入社初日からの権利

現行の不当解雇に関する2年間の資格期間を廃止することは、雇用権利法案の中でも最も影響力の大きい改革の一つであるが、重要な詳細は依然として不明である。雇用権利法案は雇用初期段階における「軽微な手続き」を規定しているが、主な不明点は以下の通りである:

  • 「初期段階」の期間。政府は9ヶ月が好ましいと表明。
  • 「軽微な手続き」とは何か?ACASコードとの関係はどうなるのか?

この重要な変更はすべての雇用主・従業員に影響を与えるものであり、2027年の施行が予定されている。


2. 集団解雇

雇用権利法案では、集団解雇協議が必要な場合の新たな基準を導入し、遵守しない場合の最高罰則額を変更する。主な不明点は以下の通り:

  • 単一の事業所ではなく、複数拠点にわたって人員削減が提案される場合に、集団協議の開始を判断するための新たな基準テストには、どのような要件が適用されるのか。
  • 100人以上の解雇における最低協議期間は45日から90日に延長されるか?

これらの要素は、解雇手続きのコスト、複雑性、タイミングに重大な影響を及ぼす。集団協議プロセスを誤ると、特に罰則強化に伴い、雇用主にとって極めて高額なコストとなる可能性がある。集団解雇に関する追加基準テストは2027年の導入が見込まれる一方、罰則の強化は早期に施行される見込みである。


3. 妊娠中または育児休暇中/復職後の従業員の保護

雇用権利法案には、産休復帰者、妊娠中または育児休業中/復帰後の従業員の解雇を制限する規制を導入する政府の権限が含まれている。主な不明点は以下の通り:

  • 妊娠中、産休(またはその他の育児休業)中、または復職後に、リダンダンシー以外のどのような状況で解雇が認められるのか?
  • 合法的な解雇のために雇用主が提出すべき証拠は何か?

この変更は、多くの従業員と雇用主に影響を与えるため重要である。これらの要件を満たすことは(特に大企業では)かなり複雑になる可能性があり、雇用主は自社のシステムとプロセスが目的に適合していることを確認する必要がある。2025年秋にさらなる協議が行われ、その後2027年に施行される見込みである。


4. ハラスメント・差別に関する秘密保持契約の禁止

法案の後半で新たな秘密保持契約禁止条項が雇用権利法案に追加されたが、主要な詳細は依然不明確である。具体的には:

  • 禁止が適用されない「例外契約」の定義
  • 公表された施行目標期日がない中、禁止がいつ施行されるか?

この新規定は、ハラスメント・差別申し立ての和解処理や、契約書・方針・和解合意書における守秘条項の文言に重大な影響を及ぼす。


5. 公正労働機関 FWA: Fair Work Agency

雇用権利法案では、新たな雇用法執行機関「公正労働機関(FWA)」の設立が予定されている。主な不明点は以下の通り:

  • 公正労働機関が完全に稼働するまでの期間
  • 公正労働機関がどのような執行方針を取るのか?

特に公正労働機関の管轄範囲が休日手当にまで拡大されるため、この改革は企業にとって特に重要な影響を及ぼす。休日手当は現在、国家による執行対象外であり、全ての労働者に適用される一方で、正確な計算が極めて困難であることで知られている。

公正労働機関は2026年4月に発足予定だが、完全に機能するまでに要する期間は不透明である。


6. 職場におけるセクシュアルハラスメント防止のための「あらゆる合理的な措置」を講じる義務

本法案は、セクシュアルハラスメント防止のための合理的な措置を講じる既存の義務を強化し、第三者によるハラスメントについても雇用主に責任を負わせる。主な不明点は以下の通り:

  • 「あらゆる合理的な措置」とは具体的に何を指すのか?
  • 最新のEHRC(平等人権委員会)ガイダンスへの準拠で十分か、それとも雇用主は追加措置を講じることを求められるのか?

この問題は、全ての職場と雇用主に影響を及ぼす可能性があり、実務上頻繁に生じるため重要である。

意見募集は2025年6月30日に終了し、義務は2026年10月に発効する見込み。


7. 平等におけるアクションプラン(従業員250名以上の雇用主が対象)

この新たな要件の対象となる雇用主は、男女間の賃金格差の是正と更年期障害を抱える従業員の支援に関する計画を盛り込んだ行動計画を公表する必要がある。主な不明点は以下の通りである:

  • 男女平等に関連する「平等における行動計画」には具体的にどのような情報が求められるのか?
  • 遵守しなかった場合、どのような罰則が適用されるのか?

これらの措置は2026年4月に自主的な導入が始まり、2027年より義務化される予定である。


今後の展望

雇用権利法案は、数十年ぶりの英国雇用法の大改革であるが、重要な詳細の多くが未定のままである。広く指摘されているように、法案の議会への提出を急いだ結果、、法案は部分的に非常に大まかな内容となっており、今後の実施規則によって補完される見込みである。

今後予定されている協議によって、より明確な内容が示されることが期待される。それまでは、雇用主には法案の進捗を注視し、今後の変更に備える準備を整えておくことをお勧めする。


もし、特定のケースにおいて具体的なアドバイスが必要な場合は、Lewis Silkin LLP法律事務所の  Abi Frederick弁護士Abi.Frederick@lewissilkin.com まで、ご連絡をお願いいたします。


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