Nov 2024 – 更年期とメンタルヘルス:見えない症状への対処
2024年10月18日は「世界更年期デー」であった。最近の法改正により、更年期に関するサポートが職場での優先課題とされ、雇用主にサポートのための行動計画の策定が提唱されている。本記事では、更年期がメンタルヘルスに与える影響と、それが職場に及ぼす可能性のある影響について焦点を当て説明する。
女性の更年期障害は人それぞれだが、更年期には度々メンタルおよび身体的健康に重大な影響が伴う。ここでは、更年期の症状とは何か、そして雇用主が検討すべきサポートについて概観する。
更年期とは
NHSによれば、更年期とはホルモンレベルの低下によって12か月以上月経が止まった状態を指すものである。これは一般的に45歳から55歳の間に生じるが、これよりも早期に更年期を迎えそれに伴う症状を経験する人もいる。
周閉経期は更年期に至るまでの移行期であり、ホルモンの変動やさまざまな身体的・感情的な症状が見られ、数年にわたって続くこともある。
更年期およびその前段階において、ホットフラッシュや動悸、筋肉量の減少などの身体的症状が現れることがある。それらが正にメンタルヘルスの症状であり、仕事のパフォーマンスに大きな影響を与える可能性がある。
メンタルヘルスへの影響
更年期(および周閉経期)に見られるメンタルヘルスの症状には、気分の落ち込み、不安やストレスの増大、抑うつ症状、記憶や集中力の問題(「ブレインフォグ」とも呼ばれる)、および睡眠障害などが含まれる。
これらの症状は日常生活に影響を与え、職場でのパフォーマンスに重大な影響を及ぼす可能性がある。例えば:
- 気分の変動は、人間関係やチームのダイナミクスに影響を及ぼす可能性がある
- 不安や抑うつは、モチベーションの低下、欠勤、生産性の低下につながることがある
- 認知的な問題は、意思決定、問題解決、タスクへの集中力に影響を与えることがある
- 睡眠障害は同様に影響を与え、他のメンタルヘルスの症状を悪化させることもある
また、これらの症状を抱える多くの人々が、症状の本当の程度を隠している可能性がある。これにより、不安の増大や自信の喪失が引き起こされるだけでなく、雇用主がその根本的な問題を認識することも難しくなっている。
更年期問題への行動計画
新たに発表された雇用権法案には、従業員250人以上の雇用主に対し、平等に関する行動計画の策定を義務付ける条項がある。この計画には、更年期を迎える従業員への支援など、男女平等に関して雇用主が講じている措置を示す必要がある。
一定の情報は公表され、頻繁に更新される必要がある。また、必要な内容、公開の頻度および形式を含む重要な詳細については、今後の規則で決定される予定である。
男女平等の行動計画が公表されるのは2026年以降となる見込みであるが、雇用主は今からどのような対応をとるべきかを検討し、従業員と連携を図るべきである。具体的で支援的な対策を導入し、ビジネスのニーズに合わせて適応させることがスタンダードな実務とならなければならなくだろう。
サポート戦略
現在、従業員に更年期を迎える人をサポートする積極的な義務はないが、サポートを導入することで、法的リスクの軽減のみならず、スティグマを減らし、より協力的な文化を作り出すことができる。更年期は、主に性別および/または年齢差別に基づく雇用関係の法的紛争の根拠となる可能性がある。また、身体的または精神的な症状のいくつかは障害に相当する可能性もある。(ただし、更年期障害そのものが自動的に障害として認められるわけではない。)
検討すべき具体的な措置には以下のようなものがある:
- 正式な更年期に関するポリシーの策定
更年期の問題に関して、スタッフを教育し、マネジャーや同僚の責任を定め、利用可能なサポートやリソースを説明するために、その枠組みや特定の更年期に関するポリシーを導入する雇用主が増加していると思う。これらのポリシーでは、更年期に関する問い合わせに対応できる専門担当者を任命することができる。この役割はウェルビーイングの担当者でも人事チーム内の誰かでも良い。
もし特定のポリシーが導入されていない場合でも、雇用主は多様性・インクルージョンポリシー、柔軟な働き方や欠勤に関する手続きを見直し、更年期障害がカバーされていることを確認する必要がある。
- オープンな会話の推進
従業員がスティグマを恐れることなく、メンタルヘルスの問題について気軽に話し合える職場文化を奨励することが重要である。「安心して話せる場」を設けることで、従業員が体験を共有し、サポートを求めやすくなる。このような取り組みは、メンタルヘルスや更年期に関する会話を日常的に行い、利用可能な支援を受けやすくする助けとなる。こうした文化を作ることは、DEI(多様性、公平性、包括性)戦略の向上にも寄与するが、特定のトピックに関する会話の場を設けることで、更年期や周閉経期を経験していない同僚にも教育の機会を提供することができる。
- 人事およびマネジャー向け研修
研修では、マネジャーが一般的なメンタルヘルスの問題だけでなく、特に更年期に関連する問題についても理解し、認識できるようにすべきである。 研修では、マネジャーがデリケートな会話に対応し、適切な調整を検討するスキルを身につけることが目指される。
- 従業員支援プログラム
EAPは、多くの場合、秘密厳守のカウンセリングや支援サービスを提供する貴重なリソースとなり得るものである。従業員が利用可能なリソースを知らないことが多いため、EAPの利用を促進することで、女性がメンタルヘルスをよりよく管理し、仕事への影響を軽減する手助けができるだろう。
- プライベート医療保険
利用可能であれば、雇用主はプライベート医療保険で提供される更年期特有のサポートについて従業員に知らせるべきである。これには専門医やプライベートGPへのアクセス、HRT(ホルモン補充療法)に関するアドバイス、女性の症状管理を支援するプログラムなどが含まれる。
- メンタルヘルスリソース
オンラインプラットフォームやヘルプライン、サポートグループといった他のメンタルヘルスリソースも、手軽で即座に利用できる支援手段となる。また、更年期に特化した健康とウェルビーイングのサポートを提供する「balance」のような専門的なアプリを普及させることで、よりニーズに合った情報とサポートを提供できるだろう。
- 職場での配慮
合理的調整を行う法的義務が発生するか否かに関わらず、より包括的で理解のある職場環境を提供するための様々な支援策がある。例えば、リモートワークやフレキシブルな始業・終業時間の設定により、ホットフラッシュや睡眠障害などの症状を管理しやすくなる。また、オフィス内には、集中力を欠く状況に対処できるよう静かなプライベートスペースを提供することが有益である。オープンな会話の場を設けることにより、マネジャーは特定の個人がどのようなサポートを受けるとよいかを理解しやすくなるであろう。
なぜこれが重要か
女性の人生のこの時期をサポートすることは非常に重要であり、勤務時間を減らしたり離職を選択する可能性のある女性の定着率向上につながる。この問題は、50歳以上の女性の就業者数の増加に伴い、今後数年間で重要性を増すだろう。最近の統計によると、英国の労働人口の半分近くを女性が占めており、今後も増加すると予想されている。
しかし、最大の変化をもたらすためには、女性だけでなくすべての従業員がタブーや偏見を打破するために力を合わせる必要がある。この取り組みには、誰もが果たすべき役割がある。これを支援するために、雇用主はMenopause Workplace Pledgeへの署名を検討し、更年期を迎えるすべての人が支援を受けられるように積極的な取り組みをすることが重要である。
もし、特定のケースにおいて具体的なアドバイスが必要な場合はLewis Silkin LLP法律事務所の Abi Frederick弁護士Abi.Frederick@lewissilkin.com 、または中田浩一郎法律顧問koichiro_nakada@btinternet.comまで、ご連絡をお願いいたします。
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