FEB 2024 – ハイブリッド型の職場におけるリモートワークの申請の拒否について

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多くの雇用主にとって、オフィスへの出勤率を高めることは依然として重要な課題であり、今後予定されているフレキシブルワーク制度の変更により、在宅勤務の申請が増える可能性がある。このような背景から、金融行動監視機構のFCAが関与した最近の雇用審判所の判決について考察する。この判決では、雇用主は正しく対処すれば、特にある程度の対面時間が必要とされる管理職の従業員からの完全リモートワークの申請を拒否することができるという安心感を与えるものである。


コロナウィルスによるパンデミック発生後、様々な業種の多くの雇用主がハイブリッド型勤務を導入した。出勤再開の要件は様々だが、従業員が2〜3営業日を物理的にオフィスで勤務することが一般的な最低限の要請であり、これはFCAも同様だった。コロナ規制が緩和されると、FCAは全職員に対し、勤務時間の40%をオフィスで過ごすよう要請し、残りの60%はリモートでの勤務が可能になった。シニア・リーダーシップ・チームは勤務時間の50%をオフィスに出勤することが求められた。

昨年中は、多くの雇用主が、従業員がオフィスで過ごさなければならない労働時間を増やしたり、既存の期待をより厳格に取り締まったりして、オフィスへの出勤に対してより厳しいアプローチを取り始めた。これは2024年も引き続き最優先事項である。

多くの雇用主は、パンデミック後に従業員にオフィスへの出勤再開を求めた当初、フレキシブルワークの申請が急増することを予想していた(そして経験した)。今度のフレキシブルワーク制度の変更はかなり軽微なものではあるが、それでもまた申請が増えるかもしれない。雇用主がオフィス出勤再開を優先し続ける中、リモートワークの申請への対応は引き続き雇用主にとっての課題である。


 フレキシブルワーク改革

要約すると、2024年4月6日から施行される主な法改正は以下の通りである:

  • 12ヶ月間に申請可能な件数の1件から2件への増加
  • 雇用主に義務付けられる申請に対する回答期限の3ヶ月以内から2ヶ月以内への短縮
  • 申請を拒否する前に従業員と協議することの雇用主への義務付け
  • 従業員が申請が雇用主に与える影響とその対処方法について説明しなければならない義務の撤廃

また、別の規則により、フレキシブルワークを申請する権利は「入社初日」からの権利となり、資格取得のための勤続年数は不要となる。

重要なことは、雇用主がいかなる申請も拒否できる幅広い理由が引き続き存在するという点は変更されていないと言うことである。雇用主は、申請を拒否するためには、仕事の質や業績への悪影響を含む8つの法定の経営上の理由のうちの1つ(またはそれ以上)に依拠しなければならない。

今月初め、斡旋調停仲裁機関であるAcasは、フレキシブルワークの申請を合理的な方法で処理することに関する最新の実践規範を発表した。同規範では、雇用主側が申請を受け入れられない場合、従業員と代替案について話し合い、トライアル期間の利用を検討すべきであると勧告している。同規範はまた、従業員には決定を不服とする法的権利はないものの、不服を申し立てることができるようにすることが「グッドプラクティス」であり、あらゆる規模の組織において、不服申し立てに対しては、当該の上司ではなく、これに対応する別の管理職を別途任命すべきであると明示している。


完全にリモートで働くというフレキシブルワークの申請

雇用主が在宅勤務をある程度認めている場合、例えば週に1日だけオフィスで働きたいという従業員の要望を拒否すること、あるいは、完全にリモートワークで働きたいという従業員の要望を拒否することを正当化できるだろうか?

これらの問題は最近、ウィルソンさん対金融行動監視機構(FCA)において雇用審判所で検討された。
原告はシニアマネジャーとしてFCAに雇用され(ただし、シニア・リーダーシップ・チームの一員ではなかった)、4人の従業員を直接管理し、さらに10人の従業員を間接的に管理していた。彼女は2022年12月9日に完全在宅勤務を要望した。

FCAは、彼女の希望する勤務形態がチームにマイナスの影響を与えるとして、原告の要求を却下した。2023年3月2日に原告に送られた決定確認書簡にて、原告のラインマネジャーは、在宅勤務は業績やアウトプットの質に悪影響を及ぼす「可能性がある」と述べた。原告は在宅勤務中も業績を上げ、同僚とも良好な関係を築いていたことが認められたが、ラインマネジャーは、原告が対面式のトレーニングセッションを実施できなかったり、アウェイデイに参加できなかったり、新入社員を指導できなかったりすることを懸念していた。FCAはまた、原告のシニアマネジャーとしての「重要な指導的役割」と、後輩がシニアマネジャーに会うことの重要性についても言及した。

2023年3月9日、原告は申請を却下した決定に不服を申し立てた。しかし、不服申し立ては認められず、2023年3月29日にその旨が原告に通知された。


雇用審判所の判決

雇用審判所は、フレキシブルワークの申請が「誤った事実」、すなわち完全在宅勤務は業務の質とパフォーマンスに悪影響を及ぼすという事実に基づいて却下されたという原告の主張を棄却した。雇用審判所は、原告のラインマネジャーが原告の申請を拒否する要因を注意深く分析し、それが誤った事実に基づいていなかったと判断した。

更に、ラインマネジャーは、原告の申請を受け入れた場合に、多くの職務において不利益な影響を及ぼすリスクがあると判断していたことが明らかになった。これらには、新しいスタッフとの面会や歓迎、社内研修の提供、監督、アドホックのアドバイスやサポート、対面でのイベントや会議、企画会議への出席、経営陣が部門に話題を提供し(理想的には「屋台」のレイアウトで)一日を共に過ごす「部門の日」への出席などが含まれていた。

雇用審判所は、現代の職場においては、優れた技術によって異なる場所にいる人々が一緒に働くことができることを認めた。しかし、トレーニングイベントやプランニング会議など、「テンポの速い」やり取りや「迅速な議論」が行われる場合には、遠隔での出席には弱点があることも認めた。また、雇用審判所は、非正式な状況での非言語的コミュニケーションやボディランゲージに注意を払い対応することの限界にも言及した(これは、原告が上級職であったことから特に関連性が高い)。これらの要因はすべて、原告がこれまで良好な業績を上げていたにもかかわらず、原告の仕事の質と業績に不利益をもたらす可能性があることに雇用審判所は受け入れた。


雇用主にとっての実務上のポイント

裁判での判決に、他のケースへの一般的な拘束力はないが、それでもこの判決は、オフィスへの出勤義務化を推進しようとする雇用主にとっては歓迎すべきものであろう。本判決は、雇用主にとって多くの実践的なポイントを提供するものである:

  • フレキシブルワークの申請は、個人の役割、責任、状況に応じて個別に評価されるべきである。雇用主は、申請に対して一律のアプローチを採用することは避けるべきである。
  • 申請を検討する際、雇用主は代替の勤務形態(例えば、雇用主による元々のリクエストよりも低い割合で従業員がオフィスに出勤できるかどうか)を考え、トライアル期間を検討すべきである。
  • フレキシブルワークの申請があった場合、雇用主は、責任の所在を明確にした上で、明確かつ一元的な手順で対応できるようにすべきであり、更に、管理職はそのような手続きについて研修を受けるべきである。2024年4月6日以降、従業員は入社初日から申請でき、且つ年に2回申請できるようになるため、社内手続きはさらに重要になる。いつ、どのよう申請がなされたかを適切に記録しているだろうか?
  • フレキシブルワークの申請には迅速に対応する必要がある。ウィルソン訴訟における雇用審判所の見解は、フレキシブルワークの申請は「迅速に」処理されるべきであり、十分なリソースを持つFCA規模の企業は明確な手順を定めておくべきであるというものであった。期限に違反した場合の最終的な金銭的救済は比較的低額であるが、手続き上の違反は従業員との関係に影響を与えたり、従業員が他の社内プロセス(苦情の申し立てなど)を開始したり、訴訟を起こしたりする結果となる可能性がある。期限の延長が必要な場合は、早い段階で従業員と話し合うべきであり、書面で確認する必要がある。

フレキシブルワークの申請に関する斡旋調停仲裁機関の実践規範の改訂版は、こちらからアクセスできます。Miss E Wilson対Financial Conduct Authorityの判決はこちらで閲覧可能です。 


もし特定のケースにおいて具体的なアドバイスが必要な場合は、Abi.Frederick@lewissilkin.com(Lewis Silkin LLP法律事務所)  又は弁護士 中田浩一郎 koichiro_nakada@btinternet.com に連絡をお願い致します。


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