Mar 2023 – 職場におけるLGBT+の権利:充分要件には程遠い

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本記事では、LGBT+ の人々の現状と職場における立場、及び未だ残る課題について考える。


英国では、性的指向を理由とする差別からの保護が2003年に初めて導入され、性転換を理由とする差別からの保護は2010年に導入された。それ以降多くの変化が見られ、学校での指導を含め、地方自治体による「同性愛のプロモーション」を禁止した法律「第28条」の廃止から20年になる。現在、多くの有名人がレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー(「アウト」と呼ばれる)であることが知られており、メディアでは同性カップルが定期的に描かれている。2021年に、イングランドとウェールズのレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、無性愛者が、国勢調査で初めてカウントされた。

以前と比べると、確かに状況は良くなっているが、LGBT+コミュニティ、特にトランスジェンダーやノンバイナリーの人々を取り巻く現在のメディア情勢が示すように、職場やその他の場所でも、LGBT+の権利についてまだ満足するには程遠い。


維持されたEU法 法案化について

まず、英国のEU離脱が職場でのLGBT+の権利を低下させることは今のところ考えにくい、という点は良いニュースである。

これは、20年前にはあり得なかったことである。性的指向の差別を禁止する最初の規制は、EUの「均等待遇枠組み指令」で義務付けられていた為に導入された。人種や障害など他の差別においては、英国はEUに先駆けて差別禁止規定を導入していたが、性的指向の規制についてはEUの法律があったからこそ導入されたのである。

英国のEU離脱により、「維持されたEU法(撤回・改革)法案化」(非公式には「ブレグジット自由法案」と呼ばれている)が制定されたが、これは英国の雇用法に大きな影響を与え得ると言われている。EU法を履行する全ての規則は、2023年末までに再修正や置き換えが行われない限り「サンセット」条項により自動的に消滅する。このため、性的指向の差別に関する規則が有効のままであれば、この条項が適用されることになる。しかし、これらの権利は、性転換を理由とする差別を含む他の全ての種類の差別と共に2010年平等法に盛り込まれたため安全である。規制とは対照的に、議会法はサンセット条項の適用を受けない。つまり、職場における性的指向の差別からの保護は、この法案の下では撤廃されないということである。

理論的には、英国はもはやEU法に拘束されない為、平等法のこれらの規定を縮小または削除する法律の制定は可能である。しかし、ブレグジット貿易協定の一部として雇用上の権利を維持する必要があるなど幾つかの理由から、この可能性は非常に低いと思われる。

LGBT+の権利が削減される可能性のあるもう一つの分野があり、それは現政権が計画している新しい権利章典に関わるものである。現在の人権法は、EUから切り離された人権体制である欧州人権条約を元にしている。最近、スナク首相が英国の欧州人権条約からの脱退を検討していると報道された。欧州人権裁判所の判決は、長年にわたり職場におけるLGBT+の権利に大きな影響を与えてきた。例えば、1990年代後半には、英国がゲイやレズビアンの軍隊勤務を禁止したことは私生活と家庭生活の尊重の権利に違反する、とした画期的な判決が出たことが挙げられる。欧州人権条約を脱退すれば、職場やより広い社会でLGBT+の権利を脅かす措置に対するこの重要なチェック機能が失われる恐れがある。


LGBT+の人々が職場で直面する課題

このような進展があったにも関わらず、職場におけるLGBT+の人々には、社会の考え方に起因するもの、他者の権利や信条に配慮する必要性に起因するものなど、様々な課題が残っている。

  • 昨今、トランスジェンダーの人々が差別されない権利と、従業員が「ジェンダー・クリティカル」な信念を保持・表明する権利との間の対立について、多くの裁判が行われている。最近の判決では、「ジェンダー・クリティカル」な信念は平等法の下で保護される可能性がある一方で、そのような信念を持つことが他者に対する差別的な行動を正当化するものではないことが確認されている。このテーマに関する多くの裁判が控訴審に持ち込まれる為、不確実性は来年も続くと思われる。
  • 平等法自体には、性的指向、性別、婚姻関係にのみ適用される差別の特例があり、組織化された宗教を目的とした雇用に関連している。雇用主は、宗教の教義を遵守する為、あるいはその宗教の信者の相当数が強く抱いている宗教的信念との衝突を避ける為に、性的指向に関する差別の禁止に関する要件を適用することが認められている(例えば、宗教指導者が同性愛者ではないこと、あるいは同性愛者の従業員が性交渉を控えることといった要件が挙げられる)。この免除の論争的な性質は、同性カップルを祝福する計画を支持する英国国教会の最近の決定をめぐる論争に示されている。
  • 2022年に行われたイギリス労働組合会議の世論調査では、LGBT+の人々に対する職場でのサポートの欠如が広く明らかになった。その中には、LGBTの賃金格差を監視している雇用主は8社に1社しかなく、また、LGBT+の規定を持つ企業のうち、過去12カ月間にそれを更新したのは3社に1社だけという調査結果もある。
  • 一般的に、LGBT+の人々は、職場でより高いレベルの困難を経験する傾向にある。人事専門資格の認定・授与を行う主要専門機関CIPDの2021年の報告書「Inclusion at Work – perspectives on LGBT+ working life」によると、LGBT+の従業員は、職場での論争の高まりや仕事に対する不満の増加、心理的安全性の低さを経験したことがあり、仕事が健康に悪影響を及ぼすと報告する傾向があることが分かった。この調査結果では、トランスジェンダーの人々が最も困難を経験しているようであり、トランスジェンダーの規定と実践には適格な改善が必要であることが明らかになっている。
  • 特に、ノンバイナリーの人々や他形態の性自認の保護に関連して、法律が性的指向や性別に対する現在の姿勢で遅れをとっているという、継続的なリスクが存在する。

我々は、20年の間に間違いなく長い道のりを歩んできた。これまでの進歩を反映することは良いことだが、職場におけるLGBT+の人々の真の公平性と平等性を確保する為に、まだ何が必要なのかを明らかにすることも重要である。


もし、上記の件に関連して、特定のケースについて具体的なアドバイスが必要な場合は、Lewis Silkin LLP法律事務所のAbi Frederick Abi.Frederick@lewissilkin.com又は中田 浩一郎koichiro.nakada@lewissilkin.comまで、ご連絡をお願いいたします。


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