Oct 2022 -ブレグジット自由法案は雇用法では何を意味するか?

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有給休暇の権利はもうない?事業譲渡(雇用の保護)規則(TUPE)や労働時間の制限に別れを告げることになるのか?この記事では、まずは政府のブレグジット自由法案と、英国雇用法への大きな影響の可能性について一覧する。


ブレグジット後、英国のEU離脱は2020年12月31日に英国で施行されていたEU法(維持されたEU法(Retained EU law)と呼ばれる)を有することで緩和された。新しいEU法(廃止と変革) 案は、この維持されたEU法を撤廃して置き換えるプロセスを劇的にスピードアップすることを目的としている。英国政府の広報によると、これにより英国政府は、時代遅れで負担の大きいEU法を廃止し、英国自身の必要性に適合した規則を作ることが可能になるという。

英国は既に維持されたEU法を撤廃する自由を有しているが、それはある厳密に定義されたプロセスを用いることによってのみ可能である。しかし、これは時間がかかりすぎると考えられている。法案では規則によってEU法を撤廃したり置き換えたりすることを認めている。これは、より迅速なプロセスであり議会の精査を必要としない。重要なのは、法案に「サンセット条項」が含まれていることだ。つまり、2023年末に、残存する一部のEU法は単純に消滅する。(ただし、政府が特定の法律に関連して期限を延長する必要がある場合は、2026年6月まで延長がすることが可能になる。)


改革の課題:新しい英国雇用法のための再立法化

法案には、維持されている特定のEU法を、新しい規則によって保存、置換、廃止することを可能にする条項が含まれている。基本的な選択肢は以下の通り。

  • 修正条項ーこれは、EU法の解釈の効果を排除し、純粋な英国法に変換するものと思われる。法律を再修正する場合、曖昧さや疑問を解決するために文言を変更する権限が制限される。これがどの程度の柔軟性をもたらすかは未知数である。
  • 置き換えーこれは新しい英国版(EU法に沿った解釈をする必要がない)への完全な置き換えを可能にするものである。重要なのは、法案によると、置き換えによって「規則の負担を増やす」ことは出来ないとしている点である。
  • 廃止ーこれは、英国で同等の法律が導入されることなく、維持されている特定のEU法が廃止されることを意味する。

これらの新しい権限は、EUで保持されているすべての法律に適用されるわけではない。しかし、以下のものには適用される。

  • EU 法(労働時間規則など)を実施する二次立法(規則など)、および
  • EU法に含まれるが、規則により適用されるEU由来の雇用法(1992年労働組合・労働関係(統合)法第188条にある集団解雇協議要件の一部など)。

では、どのようなことが起こり得るのだろうか?一部の権利は意図的に保護される可能性があるが、特定の欧州司法裁判所判例法の影響は排除される。一部の権利(労働時間の権利など)の新しい英国版が導入される可能性もあるし、完全に廃止される可能性もある。しかし、英国の新しい労働時間法が導入された場合、に規則の負担を増やすことは出来ない。従って、例えば、この機会に切断権(a right to disconnect)などの新しい権利を導入することは出来ないようである。


サンセット条項の対象は?

現在、大量の英国雇用法が改革課題として取り上げられているが、そのすべてがサンセット条項により完全に消滅する見込みがある訳ではない。

2023年末までに、EU由来の二次立法法に含まれていない法律)は、意図的に保存又は置き換えられない限りサンセット条項により消滅することになる。これにより、例えば以下のような幅広い雇用関連規則が影響を受けることになりそうである。

  • 労働時間規則
  • 派遣社員規則
  • パートタイム労働者規則
  • 有期雇用従業員規則
  • TUPE(但し、EU法を実施する限りにおいて。実際には、TUPEはいくつかの点でEU法よりも意図的に進化している。)
  • 従業員の情報および相談に関する規則
  • 各種安全衛生規則
  • 産休及び育休規則(育児休暇と、潜在的には出産制度のある側面に関して、ただしEU法を実施するための規則である限りにおいて。)

ただし、法律に含まれる雇用法はサンセット条項の対象にはならない。


改革課題の対象になっていないものは?

雇用法の中には、第一次立法(法律)に含まれるものもある。それらが規則によって含まれたものの場合、サンセット条項によって消滅することはないが、改革課題になる可能性がある(上記参照)。しかし、その条文が規則ではなく法律に由来するものであれば、改革課題には全くならない。これは、2010年男女平等法の大部分に当てはまる。これらの法律の一部はまだEU法を維持しているかもしれないが、自動的に同化されるであろう。しかし、EU法の優越性は放棄されることになる。


法改正に関する重要な問題点

本法案は、以下のような多くの主要な問題を提起している。

  • 法律を適切に改革するのに十分な時間はあるのだろうか?急いで制定された法律が良い法律とならないリスクは確かにあるが、政府はサンセット条項の下で規則が消滅することに満足するのか、それとも、より長い議論を可能にする延長権に依拠しようとするのか。
  • 英国の新しい法律を作る場合、(白紙からから始めるより早いという理由で)既存の規則を出発点として使うだけだろうか?例えば、休憩時間に関する法律を作ろうとする場合、労働時間規則に規定された休憩時間でなければ、他のどのような時間から始めるべきだろうか?
  • 新しい法律について適切な協議や監視が行われるのか?
  • サンセット条項によって法律が廃止されたり、改革されたり、消滅することが許された場合、その法律によって与えられた権利が契約上の規定(例えば、雇用契約における休暇の権利やTUPE契約における退職条項)に変換された場合はどうなるのか?
  • 英国とEUの貿易協定では、英国が競争優位の雇用の権利を削減した場合、関税を課される可能性に直面している。このことは改革にどの程度影響を及ぼすか?

次に何が起こるか?

この法案が最終的に成立するまでに、激しい議論と多くの修正案が出されることが予想される。しかし、2023年末はそう遠くなく、おそらく政府各省は時間切れの状態でサンセット条項の運用にさらされることを避けるために、各々の責任範囲内にある維持されたEU法の見直しに取りかからざるを得ないであろう。

雇用法の複雑さを考えると、適切な代替法を議論する間一定の規制を維持するために、サンセット条項を延長する権限が必要になる可能性は十分にあるだろう。一方、2024年には総選挙があり、現政府は選挙前に多くの改革を進めたいと考えているかもしれないが、新政府は改革について異なる考えを持つかもしれない。

確かに、雇用の権利に関する改革は非常に重要でかなりスピーディーなものになりそうだ。EU指令の実施となると、通常雇用主は少なくとも2年の準備期間が必要である。このままでは、撤廃の準備に同じだけの時間をかけられない可能性がある。


 もし、特定のケースにおいて具体的なアドバイスが必要な場合はLewis Silkin LLP法律事務所のAbi Frederick Abi.Frederick@lewissilkin.comまたは中田 浩一郎koichiro.nakada@lewissilkin.comまで、ご連絡をお願いいたします。


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