Nov 2022 – 停電の冬?英国の雇用主は電力不足に備える必要があるかもしれない

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ナショナル・グリッド社は、この冬、イギリス中の家庭や企業が最大3時間の停電に繰り返し直面する可能性があると警告している。この記事では、この潜在的なエネルギーの緊急事態に先立ち、雇用主が考慮すべきいくつかの問題を探る。


西ヨーロッパでは現在、ロシアのウクライナ侵攻により石油と天然ガスの供給に大きな負担がかかっており、生活費の圧迫に拍車をかけている。ナショナル・グリッド電力システムオペレーター社は、「冬の見通し報告書」の中で、ガスの供給不足と欧州大陸からの電力輸入の減少が重なった「万が一」の場合、需要管理のために計画停電を一時的に実施せざるを得ない可能性があると警告している。

電力供給緊急事態コード(ESEコード)に従い、これは輪番制で3時間の「断電」の形をとることが予想され、特定の地域(毎回異なる地域かもしれない)の消費者には停電の1日前通知がなされる。しかし、停電の長さや頻度、消費者への通知量などは、最終的にはまだ予測不可能である。


準備と計画

1970年代の「スリーデイ・ウィーク」以来初めて、この冬、英国企業は電気を付け続けることや主要システムを稼働させ続けることが出来ない事態に陥るかもしれない。1970年代のように、2ヶ月間に渡ってすべての商業用電力の使用が毎週3日間に制限されるような極端な事態にはならないだろう。しかし、たとえ短時間の停電であっても、ビジネスには大きな支障をきたす可能性がある。

雇用主は、混乱を最小限に抑えるために講じられる手段を特定し、緊急時対策について慎重に検討する必要がある。

雇用主が実際に受ける影響は、その業種や活動内容、停電の頻度・期間・通知を受けるタイミングによって異なる。多くの企業にとって、ITサーバーやシステムの耐障害性の確保が優先されるものと思われる。製造業では生産ラインや冷蔵システムの維持が課題となり、小売業や接客業では通常のサービスが提供できなくなったり、営業すら出来なくなったりする可能性がある。

リモートワークやハイブリッド型勤務への移行が広まることで、雇用主はさらなる課題に直面することになるかもしれない。電子的なコミュニケーションやコラボレーションにより依存するようになった従業員は、停電中に効率的に働くことが出来ないか、もしくは全く働けなくなる可能性がある。しかし、今回の計画では地域ごとに輪番停電が行われるため、在宅勤務者全員ではなく一部の従業員のみが同時に影響を受ける可能性がある。

この影響を最小限に抑えるために、雇用主が講じることができる現実的な措置は以下の通りである。

  • 計画停電に対応するための勤務時間、シフトパターン、営業時間の調整。急な勤務時間変更に対応出来るかどうかは契約書の文言により、育児や介護などの縛りがある従業員にとっては対応出来ない場合もある。
  • 重要な機器や設備への電力供給を維持するために、待機発電機に投資する。
  • 特に停電の事前通知を受けている場合は、オフィスや自宅での作業中デバイスを完全に充電しておくよう従業員に奨励する。
  • 携帯電話をWi-Fiホットスポットとして使用する方法を従業員にアドバイスする。(利用可能なデータ量があり、携帯電話ネットワークが停電の影響を受けていないことが前提である。)また、インターネットにアクセスできなくなる前に重要な文書をダウンロードまたは印刷しておくことも出来る。
  • 停電の影響を受ける在宅勤務者には、職場が影響を受けず交通機関も動いている(はず)なら、職場への出社を求めるようにする。育児や介護などの理由で在宅勤務をしている従業員にはこれが不可能な場合もある。

職場を閉鎖せざるを得ない場合は?

計画停電では、一時的に工場が閉鎖されたり、生産ラインが停止されたりする可能性がある。これは、雇用主が電気なしでは全く操業出来ないか安全を確保出来ないためと考えられる。

しかし、職場閉鎖を余儀なくされた場合、雇用主はほとんどの従業員を無給で帰宅させる訳にはいかない。緊急一時閉鎖の場合、この状況に対して再交渉するための措置を講じない限り、ほとんどの従業員は通常の給与を受け取る権利がある。

ただし、被災期間中に「レイオフ」または「短時間勤務」を行う場合は例外である。「レイオフ」とは、雇用主が従業員に1週間以上仕事も給与も与えないことであり、「短時間勤務」とは、従業員が週の一部しか働かず、それに比例して給与が減額されることである。数時間の一時的な停電であれば、短時間勤務がより適切であると考えられる。しかし、雇用主が無給の短時間労働を合法的に利用出来るのは、雇用契約によって労働時間と賃金を削減する一方的な権限が与えられている場合、または従業員の同意がある場合に限られる。労働組合を持つ職場では、短時間労働についても労働組合に通知する必要があると思われる。

しかし、ほとんどの契約はこの可能性をカバーしない。(ただし、労働組合が存在する一部の業界では若干一般的である。)契約上の権限なしに短時間勤務を課すことは、従業員が賃金の違法控除を請求したり、退職して違法な解雇であると主張をしたりするリスクを伴う。

代替案としては、影響を受ける日の一部または全部について年次休暇を取得するよう従業員に求めることが挙げられる。しかし、停電の予告は急なため、これは現実的な選択肢とはなりにくい。また、特定の日に休暇を取るよう従業員に要求するために、雇用主が労働時間規則で規定された通知を行うことが出来ないため、あくまでも従業員の同意に頼ることになる。(通知期間は、従業員が取るよう求められる休暇期間の2倍なければならない。)


職場の安全衛生

雇用主は、停電の可能性がある場合の緊急時計画の一環として、従業員(在宅勤務者を含む)の健康と安全のリスクについて考慮する必要がある。雇用主は、安全な職場環境や業務システムを提供するなど、合理的に実行可能な範囲で職場における従業員の健康、安全、福祉を保護する義務がある。

一時的な停電は、照明、暖房/冷房の使用不可、コミュニケーションの欠落、機器類の突然の停止など、さらなる異常な安全衛生リスクを引き起こす可能性がある。雇用主によっては非常用発電機の使用を希望する場合もあり、スタッフはその安全な使用方法について訓練を受ける必要がある。雇用主が停電中も職場の運営を続けるつもりであれば、実際にどのように機能するかを検討する詳細なリスク評価の実施が強く推奨される。


従業員との協議

従業員は、停電が自宅だけでなく職場にもどのような影響を及ぼすか不安を感じていると思われる。従業員には、計画について常に情報を提供することが望まれる。話し合いや相談を通じて、多くの問題に対する現実的な解決策を見出すことが出来るかもしれない。また、従業員にとっても、事前に計画を立てその計画を明確に伝えてくれる雇用主は心強い存在となるはずである。

この冬に英国の電力供給が回復することを誰もが願っている。しかし、もし停電が必要になったとしても、今から何らかの準備と計画を立てることで企業と従業員両方への影響を軽減することが出来ると考える。


もし、上記の件に関連して、特定のケースについて具体的なアドバイスが必要な場合は、Lewis Silkin LLP法律事務所のAbi Frederick Abi.Frederick@lewissilkin.comまたは 中田 浩一郎koichiro.nakada@lewissilkin.comまで、ご連絡をお願いいたします。


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