May 2023 -職場のAI:規制のギャップに注意?

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最近の調査によれば、全世界で3億人のフルタイムの仕事が自動化される可能性があると指摘されているように、仕事の世界はAI技術によって革命的に変化しそうである。しかし、その変化のスピードに警鐘を鳴らす声も根強い。立法府は規制のギャップを埋めるために立ち上がりつつあるのだろうか?また、従業員の新しいテクノロジーの利用を、雇用主が独自に体系化しようとする場合、どのような配慮が必要なのだろうか。


3月末に、残念なことに規制の問題に関してアプローチの衝突が発生してしまった。つまり、英国政府がAIに関するイノベーション促進(規制緩和)白書を発表したのと同じ日に、生命の未来研究所が、強固なAIガバナンスシステムの劇的な加速を可能にするために、最も強力なAIシステムの開発を一時停止するよう求める公開書簡を発表したのだ。

英国政府の白書は、この書簡の要請に応えることは出来そうにない。提案されているアプローチは、一連の包括的な原則の適用を通じて、既存の規制当局に権限を与えるというものである。新しい法律や法的な執行義務はまだ提案されていない。これは、より厳しい規制の導入を提案するEUとは対照的である。

AI、特に生成AIは、昨年11月のChat GPTの発表以来、人々の意識の最前線に躍り出た。生成AIは現在自由に使用することができ、職場で多くの有益な用途を持つ可能性がある。しかし、立法府による明確な規制がない以上、雇用主はこの技術が職場で日常的に使用されることを見過ごさない方が賢明である。以下に、主要な問題点と何がAIポリシー上で有益に扱われるであろうかを考察する。


アルゴリズムによる管理-労働組合会議の懸念事項

英国の職場において、こういった発展途上の技術をより厳しく監視するよう求める声は、近頃労働組合会議からも聞かれるようになった。労働組合会議は、AIを搭載したテクノロジーは現在、労働者の人生において「ハイリスクで人生を変える」決定(業績管理や解雇に関する決定など)を行っていると主張している。歯止めがかからないまま、このテクノロジーは職場での差別を拡大させる可能性があると警告している。

労働組合会議は、労働者が自分に関する意思決定においてテクノロジーがどのように使われているかを理解できるようにするための説明の権利と、新しいAIを導入する前に雇用者が協議する法的義務の導入を求めている。

法的ガードレール:既存のものと潜在的なもの

ある労働組合会議の報告書の焦点は、スタッフの採用、監視、管理、報酬、懲戒のためにAIとADM(自動意思決定)の使用が急増していることを念頭にした上での、パンデミック後の職場におけるAIシステムの法的影響の分析であった。既存の法律が既にその利用をどの程度規制しているかという点、また、労働組合会議が埋め合わせを要する重大な欠陥があると感じた点が、報告書により明らかになった。

例えば、コモン・ローの相互信頼・信用の義務は、雇用主が自らの決定を説明できること、そしてその決定が合理的かつ誠実であることを間違いなく求めている。法的権利の面では、不当解雇に対する保護、データ保護権、平等法に基づく差別の禁止(中略)などが、このテクノロジーが職場でどのように使われるかに関連している。しかし、2021年の報告書は職場のAIシステムを既存の法律で規制する場合の15の「欠点」を指摘し、これらの明白な欠点を解消するための法改正を具体的に数多く提言している。例えば、雇用主がAIやADMの危険度の高い利用について、雇用契約書第1条への情報の記載を義務付けることを提案している。しかし、これから考察するように、白書で政府がとったアプローチは、そのような「プラグ」の水密性からほど遠いものであることを意味する。


AI白書について

政府は先月発表した白書の中で、AI規制に対して取っているアプローチを「比例的でイノベーションを促進する規制の枠組み」と表現している。

要約すると、このアプローチは公然とライトタッチで、企業に過度な負担を課す可能性のある急激な立法化に対して注意を促している。代わりに提唱されているのは原則に基づく戦略であり、AIの責任ある開発と利用を「導き、示す」ための5つの原則を特定している。その内容は以下の通り:

  • 安全・安心・堅牢性
  • 適切な透明性・説明可能であること
  • 公正性
  • 説明責任とガバナンス
  • 競合性と救済

既存の規制当局は、特定の分野に適したアプローチをとりながら、既存の法律や規制を通じてこれらの原則を実施することが期待されている。

新たな明確な規則がないため、雇用主は原則に基づくアプローチが職場で提案するAIの使用にどのような影響を与えるかについて、不明確なままにしてしまう可能性がある。


EUの規制

EUレベルでのAI規制は、現在欧州議会で審議されている「人工知能法」がAIの開発に対して世界で最も厳しい規制となるとして、より厳しい線引きを提案している。これは、リスクベース方式で規制を行うもので、違反した場合は多額の罰金が科される可能性がある。

要約すると、AI法では、様々なAIシステムが基本的権利や健康・安全に対してもたらしうるリスクのレベルを決める分類システムの提案をしている。テクノロジーに課される制限は、その技術が4つのリスク階層(許容不可、高度、ある程度、最小)のどれに位置付けられるかによって決まる。

高いリスクの用途に該当するリストの中には、一部の採用・雇用における利用ケースが含まれている。この技術を使った例としては、履歴書スキャンツールや、AIによるパフォーマンス管理ツールなどが考えられる。これらの利用ケースでは、様々な或いはより詳細なコンプライアンス要件に従うことになる。これには、以下のような必要性が挙げられる:

  • 包括的なリスク管理システム
  • システムを鍛え検証するための、関連性のある代表的で正確なデータ
  • 透明性
  • 人による監視

勿論、英国はもはやこのようなEUの新しい規制に直接拘束されることはないが、英国の企業がこの規制の届かないところにいるわけではない。

今のところ、現状の規制レベルに対する不安は明らかである。AI法が施行されるまでは、恐らく他の国もイタリアの立場に倣い、プライバシーへの懸念からChatGPTを一時的にブロックするであろう。


ChatGPTポリシーの出番か?

雇用主は、AIが組織内でどのように使用されているのか雇用主自身が理解する必要がある。

生成AI技術に焦点を当てると、今や個人で簡単に利用できるということは、職場でこの技術が使われていることに気付かれない恐れがある、ということだ。携帯電話やソーシャルメディア、サードパーティーのシステムなど、技術の利用を規制する職場のポリシーは一般的だが、ChatGPTのようなプログラムをいつ、どのように職場で利用すべきかについてカバーするために、ポリシーの幅を広げることは理に適っている。

その場合、許容可能な利用方法を定めた生成AIポリシーで対処すべき主要リスクには何が考えられるだろうか?

  • 何のために使うのか: 何が許容範囲で何がそうでないかは、仕事や職場の性質によって異なるが、明確なガイドラインは有益であろう。生成AIに対する使用のコントロールは、既存の従業員にだけでなく求職者に対しても考慮が必要である。このリスクを認識したMonzo社は、ChatGPTを含む外部サポートを利用した応募は失格となることを候補者に警告するという「未然防止策」を取っている。
  • 高度の技術を必要としないよう仕事を再設計: これまで人が行っていた作業を生成AIが引き受けられたとしても、それがスキルの観点から望ましいことなのか、また、スタッフに高度の技術を必要としないよう仕事を再設計することのリスクはないのか。
  • 守秘義務:生成AIのシステムは常に学習しているため、開放されたシステムに機密情報を入力することは、データ保護リスクを含むリスクの可能性がある。このリスクは、入力されたデータがシステムのメモリに保存され、第三者がアクセスできる可能性やAIモデル自体が後々アクセスでき得るために生じる。これは、例えばChatGPTが人事関連で使用される場合、特にリスクとなる可能性がある。
  • 著作権侵害: 雇用主は、生成AIシステムが著作権で保護されている素材を使用する可能性があるリスクを考慮する必要があり、AIが生成したアウトプットがこの場合どう使用できるかに影響を与え得る。AIが生成したコンテンツの所有権については複雑な問題であるため、こちらで解説していく。
  • 精度: そのテクノロジーは驚異的だが、特に雇用の場では人間のフィルターが不可欠である。ポリシーにより、アウトプットの正確性、偏見、特定の状況への適合性のチェックが可能となる。これは、人による意思決定の与える影響が大きく、また、人ならではのソフト面や状況要因(道徳原理や共感など)が重要であることが多い雇用の場面でより重要になるであろう。また、生成AIは最も妥当なアウトプットを生成するように設計されており、それは最も真実に近く正確なアウトプットとは必ずしも一致しないことを忘れてはならない。

この技術の利点は有益に受け入れられ得るが、カスタマイズされたポリシーにより、雇用者側の条件に合ったものであることが保証される。この技術に対する規制が「加速する列車に小さな赤旗を振る程度のもの」と言われている今、これは非常に重要なことであろう。


もし、上記の件に関連して、特定のケースについて具体的なアドバイスが必要な場合は、Lewis Silkin LLP法律事務所のAbi Frederick Abi.Frederick@lewissilkin.com又は中田 浩一郎koichiro.nakada@lewissilkin.comまで、ご連絡をお願いいたします。


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