Aug 2023 – フレキシブルな働き方-新たな法律とガイダンス

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英国の夏は思ったより涼しいかもしれないが、フレキシブルな働き方の分野では熱く盛り上がっているようだ。フレキシブル・ワーキング法案が勅許を取得し、新しい斡旋調停仲裁機関の規範(Acas Code)とガイダンスに関する協議が開始され、政府はフレキシブル・ワーキングの慣行をより広く検討するための情報の収集を行った。この変更が施行される前に、政府は規制を導入する必要があるが、それは来年の今頃には導入される見込みである。しかし、実際に何が変わり、雇用主は何に焦点を当てるべきなのだろうか?


何が変わるのか?

パンデミックは、人々の働き方や働く場所に大きな変化をもたらした。とはいえ、新法によって導入される変化はそれほど劇的なものではない。要約すると、主な変更点は以下の通りである:

  • 従業員がフレキシブルワークの申請により、雇用主に及ぼしうる影響(もしあれば)とその対処方法について従業員が説明しなければならないという要件の撤廃
  • 12ヶ月間で申請可能な件数が、1件から2件に増加
  • 従業員からの申請に対する雇用者からの回答の義務が、これまで3ヶ月以内だったのが、2ヶ月以内に短縮
  • 申請を却下する前に、雇用主が従業員と協議することの義務付け
  • フレキシブルワークの勤務の開始と同時に開始する権利の導入(フレキシブルワークを申請する前に6ヶ月の勤務の継続必要であったのを廃止)。しかし、これは法律そのものによって導入される変更ではないが、政府は、同法の施行と同時に、二次法としてこの特別な変更を導入する意向を改めて表明した。

結局のところ、これらの変更は限定的なものである。申請を受け入れるか却下するかは、依然として雇用者の裁量の下にある。フレキシブル・ワーキング制度を導入することではなく、申請する権利であることに変わりはなく、申請が却下される8つの理由も変更されていない。


Acasコードとは?

雇用権利法におけるフレキシブルワークに関する法定規定は、フレキシブルワークの申請を合理的に処理するための斡旋調停仲裁機関の実務規範(AcasCode of Practice)と、より詳細な法律以外のガイダンスによってサポートされている。既存の規範は2014年に発表され、雇用主が従うべき公正さの最低基準を定めている。同規範の遵守は、雇用審判所の判断に影響を与え考慮される可能性がある。

法案が可決される10日前、Acasは間もなく行われる法改正を反映した最新の実務規範と基準に関する協議について発表した。法改正の背景だけでなく、協議の序文では、フレキシブルな働き方に対する考え方の変化をもたらしたテクノロジーの進歩やパンデミックにも言及している。


何が変わるのか?

提案されている規範への変更は画期的なものではないが、フレキシブルな働き方をより支持する職場の文化を指し示すものである。

新たな序文: 規程草案には、フレキシブルな働き方が雇用者と従業員にもたらすメリットを説明する詳細な序文が含まれている。従業員にとっては労働、個人の責任やそれらの選択のバランスが改善されること、雇用主にとってはフレキシブルワークを受け入れることで多様性が向上し、労働力不足に対処できることなどが挙げられている。

より積極的に申請があれば必ず協議を行うという新たな法定要件を反映し、最新の行動規範では、有意義な対話を可能にするフレキシブルワークへのより積極的なアプローチを奨励しようとしている。序文では、申請に対するオープンな姿勢と、協議に対する前向きで建設的な態度を奨励しており、申請を却下することが「既定路線」であってはならない。

代替案を一緒に検討: 改訂された行動規範は、協議の場で代替案を検討することに重点を置いており、実行可能な解決策を見出すには、より協力的なプロセスが必要だと示唆している。

このバランスの変化は、従業員がフレキシブルワーク申請に対する効果を説明する必要性がなくなったことを補完するものであり、今回の法改正で実施されることになる。

グッド・プラクティスの原則の強化:フレキシブルワークの申請を検討する会議に第三者を同伴する権利と、申請却下に対する不服申立権は法定の権利ではないが、いずれもAcasがグッド・プラクティスとして強く推進しているものである。この2つは現行規範でも顕著だが、改正草案では強化されている。例えば、提案されたミーティング同伴者のグループは、現在は同僚にしか言及していないが、組合代表者にも拡大される。また、序文では、「積極的に」不服申し立てを行うことが推奨されており、雇用主は不服申し立てを許可するだけでなく、どのように申し立てればよいかを文書で説明し、「公平に」対処すべきであると規範草案は示している。

透明性: 規範草案の変更点の多くは、透明性を確保することを目的としている。例えば、提案されている文言では、申請が受理された場合でも、取り決めを効果的に実施できるよう「すべての関連情報が理解されている」ことを確認するためにミーティングを持つことを推奨している。また、申請が却下された場合は、規程草案では、雇用主が「決定を説明するのに役立つ合理的な追加情報」を提示することを推奨している。この点でも、従業員が更なる情報収集のために単に却下後に雇用者との対話を許可されればよいとする現行の勧告よりも、より積極的で支援的なものである。

申請を却下する8つのビジネス上の理由は従来通りであり、広範であることに変わりはないが、この勧告は単に関連する法的な却下理由を示すだけでなく、より詳細な説明が必要な場合があることを示唆している。より透明性を高めることは、雇用主がその決定の裏付けとなる健全な分析を確実に行うための良い動機付けとなるはずである。また、意思決定プロセスが不明確な場合に生じ得る差別になるリスクを軽減することもできる。

予測可能な労働形態: 改訂された規範は、予測可能な労働形態を申請する権利の提案にも言及し、2つの制度の下での申請がどのように相互作用するかを説明している。予測性の向上を目的としたフレキシブル勤務の申請は、予測可能な労働形態を申請する手続きの下で対処した方がよい場合があると説明している。


これらの変更は重大なものか?

新法と改正規範草案双方の根底にある方針は、フレキシブルワークを支援し、申請に対する前向きで透明性のあるアプローチを奨励することであるが、今回の変更が劇的な影響を与える可能性は低いだろう。この規範は、最終的にはプロセスと手続きに関するものである。フレキシブルワークのビジネスケースに対するより広範な焦点は、慈善団体Working Familiesが政府のフレキシブル・ワーキング・タスクフォースと共同で発表した新しいガイダンスに反映されている。このガイダンスは、なぜフレキシブルな働き方がビジネスにとって良いのかを考察し、フレキシブルな職務の設計に関するガイダンスを提供している。

この幅広い文化的な点を考慮すると、パンデミックが週5日のオフィス勤務に終わりをもたらしたことは明らかだ。しかし、多くの組織では、オフィスへの出勤レベルの均衡をまだ見出していない。一部の業界(特にハイテク業界や専門サービス業界)では、オフィスでの勤務をより義務化することを推進している。フレキシブル勤務の申請をすることは、従業員がこのような要求に抵抗するための一つの方法である。このような申請に応じる場合、フレキシブル勤務の申請を却下する法的根拠はまだ幅広いため、力の均衡が雇用者にあることは明らかである。しかし、雇用主はより広い視野に立つ必要がある。フレキシブルな働き方が広く評価されるようになり、多くの人が給与よりもフレキシブルな働き方を優先するようになった現在、雇用主はこれらの問題に対応する際には従業員の雇用の維持と従業員全体への一貫性を考慮する必要がある。

来年政権が交代する可能性があるが、この分野で更なる変化が見られるかどうかを注視する必要がある。


 もし特定のケースにおいて具体的なアドバイスが必要な場合は、Abi Frederick Abi.Frederick@lewissilkin.com(LewisSilkinLLP法律事務所)又は弁護士 中田浩一郎 koichiro_nakada@btinternet.com に連絡をお願い致します。


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