Jun 2023 – 労働人口の高齢化が進む中、雇用主は中高年労働者の体調不良という課題にどのように対応すればよいか

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職場にいる中高年労働者の数が増えれば、健康上の問題を抱える従業員が増え、報酬パッケージの一部として健康関連の福利厚生が重視されるようになるかもしれない。当記事では、雇用法上の留意点を探り、5つの実践的なヒントを紹介する。


中高年労働者と労働力については、メディアでもよく取り上げられている。長寿化により高齢者の労働力が増加し(英国だけでなく世界的に、2030年までに世界の6人に1人が60歳以上になると見込まれている。)、中高年労働者の離職が増加している。(英国では新型コロナの流行以来、経済活動が著しく減少し、離職者のかなりの数が50歳以上だった。)

また、体調不良と職場に関する情報沢山ある。長期疾病のために英国の労働市場から離脱する人の数は近年増加しており(パンデミックの開始以来、長期疾病のために仕事を離れている人の数は36万3,000人増加し、その半分以上が50~64歳だった。)、2022年の病気欠勤率は2004年以来最も高く、1億8560万労働日だったと推定されている。

年齢が高いからといって、必ずしも若い同僚よりも体調不良を経験するとは限らないが、統計によると、体調不良は中高年労働者にとって益々大きな問題となり得る。客観的に正当化できる場合(これは難しい)を除き、ある年齢で退職することを強制することは違法な年齢差別であり、多くの人が公的年金を受け取る年齢を超えて働くことを望み、あるいは必要とする。今後、雇用主は、確実に高齢化する労働者の健康関連の問題管理に益々慣れていく必要がありそうだ。このような背景から、中高年労働者の健康問題に関連する雇用紛争の可能性を低減するための方策について、我々の考えを紹介する。


  • 体調不良の従業員をサポートする方法についての管理職へのトレーニング

検索エンジンで「Wellness at work」と検索すると、職場の健康状態を改善する方法についてアドバイスを提供するウェブサイトがたくさん見つかるが、MindやCIPDのような団体からは、特に有益な情報を得ることができる。両団体は、職場のウェルネスと健康を向上させるために、管理職をトレーニングしサポートすることの重要性を強調している。

管理職の重要な役割は人と関わることであり、その人たちが体調を崩すことも当然ある。体調不良の中高年労働者に起こり得る特定の問題を含め、管理職はこうした問題に対処するための適切なトレーニングとガイダンスを受けることが重要である。例えば、体調不良の中高年労働者について、早期に退職しそうだとか、昇進意欲があるなどと決めつけることは、違法な年齢差別となる可能性がある。さらに、労働者が中高年であること、そしてそれが健康や仕事に影響を与え得ることへの管理職の考慮がおろそかになる場合もある。単に病気欠勤を管理するのではなく、中高年労働者をどのようにサポートするのがベストなのか、彼らが行う仕事内容や方法、場所などを含めて検討することが重要である。

今後、体調不良に関する管理職研修が、多様性やインクルージョンなど他の研修と同様に普及する可能性は十分にある。また、大手の雇用主は、がんなどの特定の病気に関連したより専門的な規定を制定することが有益であると考えるかもしれない。


  • 合理的な調整と柔軟性の提供

従業員の職務に対して「合理的な調整」を行うことは、2010年平等法において、この法律上で障害者とみなされる従業員に関して発生する法的義務である。この義務は、障害という保護特性に特有のもので、障害のある従業員が、職場の規定、基準、慣行(または物理的特徴)によって実質的に不利益を被る場合に発生する。

従って、法的に「障害者」であることを意味する身体的または精神的な障害がない限り、法的義務は中高年労働者には適用されない。政府は以前、健康上の理由で職場の改造を要求する権利の導入について協議した。この権利は、4週間以上の病気休暇から復帰した従業員で障害者ではない人に適用される予定だった。(従って、前述の合理的調整の義務の対象ではない。)政府は最終的にこの実施を見送ったが、中高年労働者を職場に残すという経済的圧力が高まるにつれて、将来の政府が同様の権利を導入する可能性はある。実際に、合理的調整はよくある法的紛争分野であり、雇用主は、従業員が障害者として認定されるかどうかよりも、企業内でどのような調整が可能であるかに焦点を当てた方が、より安全な立場に立てることが多い。


  • 健康関連の福利厚生を提供する際にボロが出ないように

雇用主が労働者に何らかの健康関連の福利厚生を提供する法的要件はないが、雇用主は益々そういった給付を提供するようになっている。例えば、プライベートの医療保険、プライベートGPサービスの利用、長期病気欠勤時に収入を得られる可能性がある終身医療保険への加入などがある。勿論、この種の制度はすべての労働者に恩恵をもたらすが、NHSの待機者数が増え、GPの予約を適時に取ることが困難な時代に健康問題を経験する中高年労働者には特に有効であろう。

雇用主は、健康関連の保険や給付の条件から生じる潜在的な年齢差別問題に注意する必要がある。既定退職年齢が廃止されたため、2010年平等法には、労働者が公的年金受給年齢(現在66歳)に達した時点で保険給付(終身医療保険を含む)の取り決めを停止しても年齢差別にはならず、この年齢に達していない労働者にのみこれらの制度を提供しても年齢差別にはならない、とする限定的例外規定がある。ただし、雇用主は、その制度の終了日が66歳未満であるかどうかを規定で確認し、もしそうであれば、年齢差別請求のリスクを回避するために、規定の変更を検討する必要がある。(ただし、提案された新しい制度が、既に欠勤している労働者を認めない場合には、実務上の問題につながることもある。)雇用契約において、従業員の保険給付の受給資格は適用される保険契約の条件に従うと明記し、雇用主に対する契約上の義務の限界を明確にすることが常に望まれる。

年齢差別は法律の複雑な分野であり、特にこの種の健康保険給付に関しては、雇用主は、例えば、適用される公的年金年齢より前に保険を終了するなどの差別的な方針の正当化を求めてきた。公的年金受給年齢前に終了する制度について、コストを正当化するものとして認めない審判例もあり、裁判では、雇用主が年齢による差別のない代替保険を探すことを期待する可能性が高い。

多くの雇用主は、終身医療保険制度から生じる潜在的な年齢差別の訴えを軽減するために、柔軟な福利厚生パッケージを提供している。例えば、労働者に「フレックスファンド」を与え、提供されている様々な福利厚生パッケージから自分の好きなものを購入できるようにしている。しかし、このような制度であっても、例えば年齢に関係なく同じ価格でベネフィットを購入できない場合には法的な問題が生じる可能性があり、雇用主は常にアドバイスを受ける必要がある。


  • 安全衛生を忘れない

雇用主は、職場における従業員の健康と安全を確保するために、合理的に実行可能なことを行う法的配慮義務を負っており、これには職場内のリスク評価と管理が含まれる。この義務は、年齢に関係なくすべての従業員に適用され、労働者に対して個別のリスクアセスメントを実施する法的義務は(現在のところ)ないが、年齢を潜在的な関連要因として考慮することは賢明である。例えば、欠勤のかなりの割合が背中や首に関連する問題によるものであるため、特に従業員の年齢が上がるにつれて、ある程度定期的なデスクアセスメントを手配することが賢明である。

まとめると、健康問題は中高年労働者に限ったことではないが、労働者の高齢化に伴い、職場での体調不良がより一般的になる可能性がある。雇用主は、法的責任を回避したい場合は勿論、中高年労働者が職場にとどまり、成功し充実したキャリアを送ることを支援したい場合にも、この問題に益々注意を払う必要がある。


もし、上記の件に関連して、特定のケースについて具体的なアドバイスが必要な場合は、Lewis Silkin LLP法律事務所のAbi Frederick Abi.Frederick@lewissilkin.com又は中田 浩一郎koichiro.nakada@lewissilkin.comまで、ご連絡をお願いいたします。


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