Oct 2024 – 雇用主への注意喚起-採用前のグーグル検索における差別の回避
最近の雇用審判所の判決で、候補者を「ググる」ことの危険性が浮き彫りになった。検索は簡単に思えるかもしれないが、差別や個人データの処理に関するリスクはそれほど単純ではない。
採用プロセスで発覚した情報の取り扱いは、雇用主にとって厄介なものである。考慮している要素が合法的であり、決定が公正且つ合法的であることを確認する必要がある。最近のNgole対Touchstone Leedsの裁判は、採用プロセスにおけるインターネット検索によって不利な情報が明るみに出た場合、雇用主にとって難しいバランス調整が必要となることを浮き彫りにしている。
法的なリスク
留意すべき具体的な法的リスクがいくつかある:
- 差別:採用時に保護特性に関して差別することは違法である。これには、内定者を決定するための「取り決め」(採用前のチェックなど)や、内定を出さないという決定も含まれる。
候補者のソーシャルメディア上でのプロフィールのチェックや一般的なインターネット検索(ニュースメディアなど)については、具体的な禁止事項や法律はない。しかし、検索によって候補者に関する情報が明らかになり、その候補者がその後採用見送りとなった場合に差別の疑いを招く可能性が出てくる。雇用主側は、そのような情報をどのように扱うか慎重に判断しなければならない。
- 英国の法律では、特定の犯罪による有罪判決は一定の期間が経過すると『消滅』し、その時点で候補者は自分の記録が「クリーン」であると宣言する権利を持つことになる。雇用主が、候補者に消滅した有罪判決があることを発見した場合でも、その有罪判決はなかったものとして扱わなければならず、過去の有罪判決を理由に雇用を拒否することはできない。また、不当解雇が入社初日からの権利になれば、新規採用者(応募者ではなく)はより強い保護を受けることになる。
- データ保護: 採用プロセスで実施される検索では、個人データ、更には健康状態、性的指向、宗教的信念、政治的意見などの特別カテゴリーの個人データが処理される可能性がある。つまり、GDPRに基づく候補者のデータおよびプライバシーの権利が尊重されなければならない。
英国データ保護機関(ICO)の雇用慣行規範では、雇用主、クライアント、顧客、その他に対して特別かつ重大なリスクが伴い、且つより侵襲的でない合理的に実行可能な代替手段が存在しない場合にのみ、身元調査を行うことを推奨している(これは一般的なデータ保護の原則を反映している)。
実務上での採用チェック
- Ngole氏はソーシャルワーカーの資格を持っており、精神保健慈善団体であるTouchstoneの退院後のメンタルヘルス支援ワーカーに応募した。彼は、DBSチェックとレファレンスチェックを条件に、その仕事の内定をもらった。
- Ngole氏のレファレンスには十分な詳細がなかったため、TouchstoneはNgole氏についてもっと知るためにインターネット検索に頼った。その結果、Ngole氏がFacebook上で同性愛行為を否定する宗教的見解を表明したことで、大学のコースから退学処分を受け、大学に対して法的手続きを取ったことが判明した。
- その結果、その慈善団体はNgole氏の理念と価値観が一致しないことを「非常に懸念」した。特にLGBT+のサービス利用者に対する影響を懸念しており、彼らは統計的に見ても、偏見や差別により深刻なメンタルヘルスの問題を抱える割合が非常に高く、それゆえ慈善団体の支援を必要とする可能性が高いとされている。このことは、利用者にとって『最後の一線』になり、場合によっては自殺リスクの増加にもつながる可能性があると結論づけた。
- そのため、慈善団体は条件付きの内定を取り消した。Ngole氏がこれに異議を唱えた後、Touchstoneは同氏に再度面接の機会を与え、職務への取り組み方について話し合い、決定を再考する可能性を示唆した。しかしTouchstoneは、最終的に納得するに至らず、内定は復活しなかった。
- Ngole氏は様々な差別を訴えた。裁判所は、内定取り消しが彼の宗教的信条に基づく直接的差別に相当すると判断した。 スタッフや弱い立場にあるサービス利用者を保護するという目的は正当であったが、二度目の面接前に内定を取り消したことは適切ではなく、Touchstone、もっと強圧的でない選択肢があったはずだ。一方で、二度目の面接の要件に関する請求や、Touchstone が内定を復活させることを拒否したことを含め、原告の他の請求は認められなかった。
雇用主は最近の判例から何を学ぶことができるか?
- オンラインによる「デューデリジェンス」はリスクが高い:候補者に事前に通知した情報のみを意思決定のために使用することが最善の方法である。オンライン、特にソーシャルメディア上で見つけた情報が必ずしも正確であったり、最新のものであったりするという保証はなく、それを鵜呑みにすると誤った意思決定につながりかねない。
- 候補者の見解や信条に関する情報が懸念を引き起こす場合、常にHiggs基準を考慮することが重要である。これらが、信条や表現の自由への干渉が適切かどうかを評価する際に関係するとEAT(雇用控訴審判所)が指摘した要素である。例えば、弱い立場にあるサービス利用者がいるか、発見した情報が自社の評判に影響を及ぼす可能性はあるか、といったことが挙げられる。
- 職務内容や面接の質問に力を入れ、職務要件を明確にすることで、意思決定が宗教や信条、その他の保護対象特性に起因するように見える可能性を最小限に抑えるべきである。
- 特に規制対象となる業界であれば、徹底した強固な採用方針を持つべきである。これにより、方針との不一致や問題が発生した際に検証ができ、一貫性のある公正な意思決定をサポートすることができる。
- 条件反射的な反応は避けるべきである。不利な情報が発覚した場合、即座に内定を取り消すという雇用主の対応は、「合理的に必要な」範囲を超えた過剰かつ逆効果なものであると判断された。より適切な対応としては以下が考えられる:
- 差別の懸念なく、より穏便に自分の意見を表明する方法を従業員と話し合う。
- 公の場で宗教的見解をより適切に表明する方法について、従業員に研修や指導を行う。
もし、特定のケースにおいて具体的なアドバイスが必要な場合はLewis Silkin LLP法律事務所の Abi Frederick弁護士Abi.Frederick@lewissilkin.com 、または中田浩一郎法律顧問koichiro_nakada@btinternet.comまで、ご連絡をお願いいたします。
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