May 2025 – 男女別施設に関する平等監視委員会の最新情報

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最近の最高裁判決により、2010年平等法(Equality Act 2010)における「性別」は「生物学的な性別」を意味することが明確化された。これを受け、平等人権委員会(Equality and Human Rights Commission:EHRC)は、雇用主およびサービス提供者向けに暫定的な更新情報を発表した。以下では、この内容が雇用主にとって何を意味するのかを解説する。

この暫定アップデートは、判決内容を即時に説明すること、ならびにサービス提供者に対して更なるガイダンスが今後示される点を伝えることを目的としている。しかしながら、雇用主にとっては、依然として満足のいく指針とは言えない内容となっている。


職場における暫定的更新内容とは?

暫定アップデートでは、以下の点が示されている:

  • 職場においては、十分な数の男女別のトイレ、ならびに必要に応じて男女別の更衣・洗面施設を設けることが義務付けられている。
  • トランス女性(生物学的には男性)が女性用施設を、またトランス男性(生物学的には女性)が男性用施設を利用することは許されるべきではなく、これは、その施設がもはや男女別ではなく、異性利用者にも開放されたものとみなされるためである。
  • 特定の状況においては、トランス女性(生物学的には男性)を男性用施設に、トランス男性(生物学的には女性)を女性用施設に立ち入らせないことも、法的に認められる場合がある。
  • 一方で、男性および女性の両方が利用できる施設がある場合、トランスの人々が使用できる施設が全く存在しないような状況に置かれるべきではない。
  • 可能な限り、男女別施設に加えて男女混合(ユニセックス)のトイレ、洗面所、更衣室の設置が望ましい。

雇用主にとって何を意味するのか?

この暫定的なアップデートでは、男女別施設が設けられている場合には、雇用主がトランスジェンダーの従業員に自己認識する性別に基づく施設の使用を認めるべきではないことを明確に示している。

しかしながら、これは、トランスジェンダーの人々が、性別適合手術や性別移行に関する差別や嫌がらせを受けない権利とのバランスをどのように取るべきか、についての指針を何ら示していない。特に、彼らが使用できる適切な代替施設が存在しない場合には問題となる。平等法は、サービス提供者に与えられているトランス関連の差別請求からの保護を雇用者には与えていないため、請求がなされるリスクは依然として存在する。

すなわち、雇用主がEHRCのガイダンスに従わない場合には性差別請求のリスクが生じうる一方で、より包括的な施設運用をやめることで、性別移行に基づく差別請求のリスクをどう回避すべきかについては、実質的な解決策が提示されていないのである。

暫定的なガイダンスでは、男女混合のトイレや洗面・更衣室を設けることで、この課題に対処できるとしている。しかしながら、現在多くの職場ではそのような施設がそもそも存在しないか(特に洗面・更衣設備がそうである)、あっても車椅子用の個室トイレが1つあるのみであることが多い。

また、暫定的なアップデートは、トランスジェンダーの人々が使用可能な施設が全くない状況に置かれるべきではないとしながらも、現在の施設には限界があることを踏まえ、雇用主がそれをどのように確保することが期待されているのかについては、まったく指針を示していない。

例えば、同僚にトランスジェンダーであることを知られていないトランス男性が、何の不満も質問もなくこれまで男性用トイレを利用していたが、突然今後は女性用トイレを利用するように求められる場合など、実務上重要な点が生じる。このような対応により、雇用主が当人の意に反して「カミングアウト」させる形になれば、差別リスクが生じるのは明白である。EHRCがそのような事態を望んでいるとは考えがたく、当事者が性別認定証(GRC)を持っている場合には、なおさら慎重な対応が求められる。


職場における男女別トイレに関する法律は?

EHRCの「十分な数の男女別トイレの設置は義務である」とするガイダンスは、誤解を招くおそれがある。

安全衛生規則では、各トイレが内部から施錠可能な個室である場合を除き、男性用・女性用に分けることが必要とされている。つまり、すべてのトイレが独立した施錠個室であれば、男女混合トイレも認められるということである。逆に、施錠可能な個室ではないトイレを設置する場合、安全衛生規則では、男女別のトイレを設置しなければならないとしている。

また、安全衛生局のガイダンスでは、トイレの最低設置数を定めているが、これはトイレが男女混合用(または女性専用)か、男性専用かによって異なる。なお、これらの安全衛生規則が作成されたのは1992年であり、平等法において性別変更に関する規定が設けられる前であったため、トランスジェンダーのためのトイレが規定されていないのは当然のことである。

なお、2010年平等法自体は、職場における従業員専用の男女別施設については特に触れていない。サービス提供者による施設に関する条文は存在するが、雇用主が従業員のためだけに提供する施設については直接的には触れていない。


雇用主が取るべき実務対応とは?

現時点で考えられる現実的な対応としては、適切な第三のスペース(ユニセックス施設など)を特定・確保することが挙げられる。そのためには、雇用主は現在の施設を監査し、既にどのような男女混合施設があるのか、また、追加する施設が男女混合スペースとして再指定できるのか、あるいはすべきなのかを理解することが賢明である。

例えば、トイレについては、既存の男女別トイレを「ユニセックス」や「インクルーシブ」に指定し直すだけでは、HSEが定める男女混合トイレの条件を満たすことは難しいだろう。

しかし、既存スペースの再指定が、短期的に男女混合スペースを作る最も現実的な方法となりうるため、雇用主は建築コンサルタントやビル管理会社と協力し、自社の敷地と労働力に適した施設のバランスを模索する必要があるかもしれない。


EHRCの今後の対応方針とは?

EHRCは、現在、法的拘束力のあるガイダンスと、必ずしも法的な拘束力のないガイダンスの両方を更新中であり、6月末までに英国政府に最新の実施規範を提供し、閣僚の承認を得ることを目標としていると述べた。

現行の実施規範は、サービス提供者、公的機関、団体向けのものと、その他の雇用に関する規範とに分かれている。暫定的なアップデートでは、更新された規範は「サービス提供者、公的機関および団体が平等法に基づく義務を理解し、実践することを支援する」としているため、両方の規範が更新されるかどうかは不明である。しかし、雇用に関する規則は平等法の別の部分にあり、雇用主は、これら2つの法律部分を混同しないように、EHRCからの明確な個別のガイダンスを取得して正しく理解することが重要となる。


もし、特定のケースにおいて具体的なアドバイスが必要な場合は、Lewis Silkin LLP法律事務所の  Abi Frederick弁護士Abi.Frederick@lewissilkin.com まで、ご連絡をお願いいたします。


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