Jun 2025 – 英国政府、純移民数削減を目指す移民制度改革白書を発表

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2025512日、英国政府は英国移民制度改革に関する白書を発表した。
雇用主(スポンサー)は、採用計画の見直しを行い、可能な限り改正前にビザ申請を進めるべきと考える。


この白書に概説されている政策の全体的な目的は、現政権の任期中に純移民数を持続可能なレベルまで引き下げることである。企業に関連する他の優先事項としては以下が挙げられている:

  • 企業に対し、英国内労働市場からの人材育成および採用にさらに貢献するよう奨励
  • 雇用ルートにおける労働者搾取の抑制
  • 移民に対する英語能力要件の強化
  • 貢献度に基づく要素が認められない限り、ほとんどのルートで永住権・市民権の取得に必要な在留期間を延長

改革の多くは現時点で施行日が未定であり、一部については「労働市場エビデンスグループ(Labour Market Evidence Group: LMEG)」による証拠・意見の提出や協議が必要とされる。最初の変更は「今後数週間以内」に導入される予定である。


Skilled Workerルート( 就労ビザ)に対する制限

Skilled Workerルートは、定住につながる英国の主な就労ルートである。このルートは、現在の状況と比べて大幅な制限が加えられる見込みである。

予定されている改革は以下の通り:

  • 応募資格をRQFレベル6以上(大学卒レベル)に制限し、ブレグジット後に緩和された条件を撤回。
  • RQFレベル6以上の職種において移民依存が著しい場合、労働力計画の提出義務を検討。
  • 現在、リストアップされた職業は給与基準額の割引の恩恵を受けることができるが、その「移民給与リスト」の廃止。
  • RQFレベル3~5(大学卒レベル以下)で長期的に不足している職務を、一定の条件のもとで期限付きでスポンサーすることができる「一時的人手不足リスト」の導入。
  • 上記一時的人手不足リスト上の職種に従事する就労者に対する、扶養家族帯同への制限の導入。
  • 介護者および上級介護者をSkilled Workerルートの入国許可から除外するが、2028年までの移行期間中は国内での切り替えと延長を認め、さらなる見直しを実施。
  • Skilled Workerルートのスポンサーシップにおける給与基準の引き上げが予定されている。これは中技能職を適用対象から除外することに伴う、論理的な結果と位置付けられている。ただし、引き上げの対象が、一般的な給与基準なのか、職種別の相場賃金なのか、あるいはその両方なのかについては、現時点で明確にされていない。
  • スポンサーシップの実績が歴史的に高い主要業界においては、スポンサーが技能向上、研修、労働条件の改善に関する一定の取り組みを実施し、かつ英国国内の非就労者を労働市場に参加させるための施策に合意している場合に限り、引き続き移民制度の利用を認める方針である。
  • Displaced Talent Mobility Pilotの閉鎖に伴い、UNHCRに認定された難民や海外避難民が、Skilled Workerルートやその他のスポンサー付き就労ルートに限定して申請できるようにすることを検討中である。
  • 英語能力要件の引き上げ、および成人扶養家族に対する新たな英語能力要件の導入。

移民スキルチャージの引き上げ

移民スキルチャージ(Immigration Skills Charge:ISC)は、限られた例外を除き、Skilled WorkerおよびSenior and Specialist Workerルートに適用される。

ISCは32%増額され、中・大規模スポンサーの場合は年間1,000ポンドから1,320ポンドに、小規模もしくは慈善スポンサーの場合は年間364ポンドから480ポンドに引き上げられる。

政府は、この徴収額を「中期的に国内労働力を向上させ、移民への依存を減らすために、優先分野への技能資金を支援する」ための資金として計上することを提案している。


卒業ルートでの在留許可を18ヶ月に短縮

Graduateルートで許可される期間は18ヶ月に短縮される予定である。白書の記載内容からすると、この変更がすべての卒業生に適用されることが示唆されている。もしそうであれば、博士号取得者やその他の博士課程修了者にのみ認められている3年間の在留期間(他の対象卒業生は通常2年間)が廃止され、区別がなくなることになる。

政府はまた、大学が留学生から受け取る収入に対する課税も検討する予定で、この詳細については秋の予算で発表される予定である。


労働市場エビデンスグループ(LMEG)の設置

新設されたLMEGは、英国産業戦略評議会、英国内の技能機関、労働年金省移民諮問委員会などから構成され、労働力戦略を必要とする分野を判断する責任を負う。


スポンサーシップ制度の見直し

政府は、スポンサー付き就労者が在留許可の有効期間中にスポンサー間を移動を今までよりも容易にすることを検討している。

また、スポンサー制度の乱用があった場合、「革新的な財政措置、罰則、制裁」の導入も検討する。これらは、スポンサーシップの法令遵守の義務とスポンサー付き就労者の移民条件の遵守を強化することを目的とされている。


不法就労対策の範囲拡大

白書では、不法就労対策の強化がすでに進行中であることが簡潔に記載されている。


High talentおよびBusiness establishmentルートの見直し

利用率を高めるため、以下のルートの見直しが行われる予定である:

  • イノベーター ファウンダー(Innovator Founder)
  • 英国拡張労働者(UK Expansion Worker):スポンサー可能人数を最大5人→10人に引き上げ
  • グローバル タレント(Global Talent)
  • ハイポテンシャル インディビジュアル(High Potential Individual)
  • 研究インターン向けの政府認可交換スキーム(GAE)

ただし、これらルートの利用者数が元々少ないことから、全体への影響は限定的とみられる。


移民制度を利用するために必要な英語力のレベルの引き上げ

改訂された英語能力要件は、より多くの移民ルートにおいて主たる申請者および扶養家族の双方に適用され、英語能力の向上状況を時間の経過とともに評価する仕組みも導入される予定である。

現在、Skilled Workerルートを含む多くの就労ルートで求められる英語力は、欧州言語共通参照枠(CEFR)B1レベル(中級相当)であるが、これがB2レベル(中上級相当)に引き上げられる見込みである。

また、永住権申請時に求められる英語能力も、現行のCEFR B1レベルからB2レベルへ引き上げられる計画である。

現在、就労者および学生の成人扶養家族には英語能力要件は課されていないが、新たに、初回の移民申請時にCEFR A1レベル(初級相当)、在留延長時にA2レベル、永住権申請時にはB2レベルの英語能力を証明することが求められる方針である。


永住権の取得要件変更

政府は、多くの移民ルートにおける永住権取得の標準的な必要在留期間を、現行の5年から10年に延長する方針を示している。ただし、英国経済および社会への貢献を示すことを目的とした(おそらくポイント制に基づく)一定の適格要件を満たす申請者については、これより短い期間での永住権取得が認められる例外規定が設けられる予定である。

なお、英国籍者の家族に該当する者は、今回の永住権要件改正の対象外とされ、これまで通り、要件を継続して満たしている限り、5年の在留期間で永住権申請が可能である。

これらの改正に関しては、年内にパブリックコンサルテーション(意見募集)が実施される予定であり、すでに永住権取得ルートに入っている人々に対する経過措置も、この検討プロセスの一環として考慮される見込みである。


貢献ベースの市民権取得要件の見直し

政府は、市民権取得要件についても見直しを行い、貢献ベースの永住権制度と整合性を持たせる方針である。英国に対する貢献度が高いと認められる個人については、そうでない者よりも早期に市民権取得が認められる仕組みが導入される予定である。

現在、永住権および市民権申請時に求められている「Life in the UK テスト」についても、見直しおよび改訂が実施される計画である。

さらに、政府は、幼少期を通じて英国に居住してきた若年成人に対し、市民権申請にかかる費用負担(申請手数料)の軽減も検討するとしている。


これらの制度改正については、今後の進展を注視し、最新情報が公開され次第、引き続きお知らせする予定である。


もし特定のケースにおいて、具体的なアドバイスが必要な場合はLewis Silkin LLP法律事務所のLi Xiang弁護士 Li.Xiang@lewissilkin.comまで、ご連絡をお願いいたします。


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