
Jul 2025 – 職場における医療用大麻:雇用主にとって増大する課題か?

医療用大麻の私的個人的な処方が増え続ける中、雇用主は職場における新たな課題に直面している。
医療用大麻に関する法的見解とは?
2018年以降、英国医師会の専門医リストに登録された医師は、合法的に大麻由来の医療製品(いわゆる「医療用大麻」)を処方できるようになった。調査によると、私的個人的な処方の件数は着実に増加しており、BBCの報道によれば、昨年時点で医療用大麻の使用者は約5万人にのぼるとされている。
NHSによる処方は、化学療法や多発性硬化症の副作用緩和といった限られた状況にのみ厳格に限定されている。一方で、私的個人的な処方はより広い症状が対象となり、不安障害、慢性的な痛み、腰痛、偏頭痛などが含まれる。
世界各地で大麻の所持・使用に関する刑罰が緩和されている一方で、英国では有効な処方箋なしでの大麻の使用・所持は依然として違法であり、B級薬物に分類されている。自己判断による医療目的の使用は責任回避とは認められず、唯一の合法的な正当化の理由は有効な処方箋がある場合に限られる。
従業員はどのようにして私的で個人的な処方を受けられるのか?
患者は、症状緩和のために少なくとも2種類以上の治療法(市販薬も含まれる)をすでに試みたことを証明する必要がある。これは、患者が症状を緩和するために他の方法を試したことを明確に証明する正式な医学的チェックがほとんど、あるいはまったくないことを意味する。中には、わずか20秒で適格性を確認できるウェブサイトも存在する。
ただし、私的で個人的な処方箋の取得が比較的容易に見えるかもしれないが、雇用主は従業員が正当な理由なく処方箋を取得したと推定すべきではない。従業員が娯楽目的(あるいは医療目的)で大麻を合法的に使用する抜け道を見つけたと決めつけることは、雇用主にとって法的リスクをもたらす可能性がある。
処方箋には、大麻オイル(経口摂取)やフラワー(気化させる)など、さまざまな形態がある。報告によると、大麻オイルは効果が出るまでに時間がかかる一方で、フラワーは即効性があるとされている。
医療用大麻を気化させる装置は医療機器とみなされるため、電子タバコの喫煙やベイプを規制する法律の適用外である。
医療用大麻の管理に関する裁判例はあるのか?
審判所の判決の大半は、従業員が有効な処方箋を持たずに自己投薬したことに関するものである。しかし、最近の事例として、医療用大麻を処方された従業員が障害に起因する差別を訴えたケースがある。
この事案で審判所は、雇用主が従業員に処方箋の提示を求めること自体は不合理ではないと認めた一方、治療計画の提示を求めたことは不合理(よって不利益な扱い)であると判断した。治療計画には、より広範な個人的・医学的情報や治療目標が含まれている可能性があるという理由によるものであった。審判所はまた、雇用主が従業員の医療用大麻の使用について(十分な情報が提供された後であっても)広範かつ繰り返し問い合わせたことは不必要であり、不利な取り扱いに相当するとした。ただし、これはあくまで雇用審判所レベルの判断であり、事案固有の事情に基づくものであった。

雇用主にとっての主要な検討事項:
- 薬物検査と労働適性評価
安全性が特に重要な職種を除き、従業員への定期的または抜き打ちの薬物検査は通常許可されない。雇用主は、そのような職務に従事する従業員に対し、、業務遂行能力に影響を及ぼす可能性のある薬物の使用を開示させる明確な方針を策定し、医療用大麻に関しても開示手順を設けるべきである。
薬物検査が実施され大麻が検出された場合、雇用主は処方箋があるかどうかを調査し、従業員の労働適性への影響について医学的助言を受ける必要がある。
状況によっては、会社内の医師やGPからの助言を得ることが望ましい場合もある。これは、雇用主が、大麻が業務内容にどの程度の影響があるか、どのような配慮が必要か(例えば休憩時間の追加など)を判断する上で有用である。職場で大麻を使用することが安全衛生上のリスクと成り得る場合(例えば、製造業で働く場合など)には、医学的助言が特に重要となる。なお、雇用主が医学的助言を必要とする場合、その意見取得に伴う費用(休暇、診察、診断書取得など)は、雇用主が負担することが望ましい。
従業員が大麻を使用している間は職務を遂行できないという医学的見解がある場合、雇用主は適切な代替職務があるかどうか、または職務の一部を変更できるかどうかを検討する必要がある。それが困難な場合、能力不足に基づく手続きや、業務遂行不能を理由とした「他の重大な理由」による解雇も選択肢となりうる。どのような状況でもそうであるように、即座に反応するのではなく、考慮し、適切な見解を示すことが重要である。
- 薬物乱用ポリシー
医療用大麻の処方増加に伴い、既存の薬物ポリシーを見直す必要があるかもしれない。職場における薬物の所持に関する文言は、従業員が合法的に大麻を処方される可能性があることを反映したものに改定する必要があるかもしれない。雇用主は通常、全ての処方箋薬の開示を従業員に求めることはなく、間違いなく医療用大麻も同様であるべきだが、業務に支障を来す可能性がある処方箋薬については、開示を義務付けることは正当(かつ望ましい)と考えられる。他の処方箋と同様に、医療用大麻の処方箋を持つ従業員が処方箋を他人と共有することは適切ではない。処方箋を共有することは、合法的なポリシー違反となりうるだけでなく、犯罪につながる可能性もある。
- 医療用大麻処方の正当性
ほとんどの雇用主は、他の医薬品の処方箋の正当性を疑わないが、医療用大麻については、非医療目的の使用の普及(および犯罪性)、および業務適性への影響に対する懸念から、疑念を抱くことがあるかもしれない。医療用大麻の処方箋が、登録専門家によって発行されたものであるかどうかを確認することは、妥当であると思われる。しかし、その処方が適切であったか、従業員が適切に使用しているかを争うことははるかに困難である。雇用主が懸念を抱いている場合、会社内の医師の適切なサポートが有用であるが、実際には必ずしも容易に確保できるわけではない。
- 偏見、認識、差別
医療用大麻を服用している従業員が直面する最大の課題の一つは、大麻にまつわる偏見である。ラインマネジャーや人事担当者は、医療用大麻が他の処方薬と同様に合法的に使用できることを理解することが重要である。雇用主は、障害に起因する不当な差別や、合理的配慮義務違反を避けることに留意しなければならない。例えば、障害のある従業員が処方された医療用大麻を服用するための休憩を認めないといった対応があげられる。また、障害のある従業員が適切な換気のある屋内で医療用大麻を気化できるようにすることも、合理的調整となりうる。
- 守秘義務
医療情報はGDPRでは特別な個人情報として扱われるため、雇用主は医療用大麻の使用に関する情報を慎重かつ責任を持って取り扱う必要がある。情報の開示は必要最小限にとどめ、明確な業務目的のために知る必要のある者のみに限定すべきである。
- その他の考慮事項
職種特有の問題も発生しうる。例えば、他国での大麻所持の合法性に関する問題や、海外出張時の法的リスクなどが考えられる。結局のところ、職場における医療用大麻に定型の対応策はなく、それぞれの従業員の個別の職務内容に特に焦点を当てて検討をしながら、各事案ごとにケースバイケースで判断する必要がある。
もし、特定のケースにおいて具体的なアドバイスが必要な場合は、Lewis Silkin LLP法律事務所の Abi Frederick弁護士Abi.Frederick@lewissilkin.com まで、ご連絡をお願いいたします。

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