
SEP 2024 – 労働党の「ニューディール」:初日からの不当解雇権、試用期間制度とオランダの事例

雇用主が労働党の雇用初日からの不当解雇の権利に関する計画の詳細を待つ中、同様の規則が既に存在するオランダからどのような教訓を学べるかを探る。
労働党新政権は雇用法の抜本的改革を計画しており、政権発足後100日以内に法案を提出すると約束している。多くの雇用主にとって、雇用初日からの不当解雇の権利を導入する計画は最大の懸念事項である。英国人事開発協会(Chartered Institute of Personnel and Development:CIPD)が最近実施した調査によると、現行の2年間の適用期間を短縮する案への支持が多数を占める一方で、適用期間を完全に撤廃することについては雇用主の懸念が明らかになった。(適用期間の完全撤廃という選択肢を支持した回答者はわずか5%)
雇用初日からの不当解雇の権利と試用期間
1971年に不当解雇の権利が導入されて以来、適用期間は6ヶ月から2年の間で変動し、保守党政権下では増加し、労働党政権下では減少した。1980年から1985年にかけては、大企業は2年、中小企業は1年であった。しかし、50年以上前に導入されて以来、不当解雇されない権利が即日付与されたことは一度もない。
雇用主は、新入社員ががうまくいかないことが早い段階で分かった場合、その新入社員の雇用を終了させる際のプロセス、コスト、リスクを懸念している。雇用主の中からは、新規雇用のリスクを負うことに消極的になり、雇用の拡大が抑止されるだろうという声もある。
しかし、入社初日からの権利は労働者がより良い仕事に移ることを促し、英国経済に打撃を与えるという意見もある。 なぜなら、労働者は解雇からの保護を完全に失うことなく転職できるからである。
労働党は選挙前に雇用主の懸念に対応した。2022年10月、労働党は初日からの不当解雇の権利について言及した政策提案を発表、試用期間の例外については何も触れていなかった。しかし、2024年5月までには、「新入社員を評価するために雇用主が試用期間を運用できるようにする」として、この初日の権利に条件が付けられた。
現在、多くの雇用主はこれが何を意味するかを問うている。労働党の提案では、「公正で透明性のある規則とプロセスを伴う試用期間」に言及していることから、労働者が試用期間中であっても一定の権利を有することは明らかであると思われる。
英国で今後試用期間がどのように運用されるかを理解するために、すでに試用期間を条件とする不当解雇の権利が存在する国のひとつ、オランダで試用期間がどのように扱われているかを見てみよう。
試用期間に関するオランダの規則
オランダの解雇規制は非常に厳しい。一般的に、従業員を解雇する前に裁判所または労働当局の事前承認が必要である。OECDのランキングによると、オランダはOECD加盟国38ヶ国中3番目に高い解雇保護水準にある。(英国は38ヶ国中31位)
ただし、試用期間中はオランダの厳格な雇用保護規則は適用されない。試用期間満了前の解雇には事前の承認は必要ない。従業員は差別禁止法に基づき解雇を争うことはできるが(現在の英国のケースと同様)、解雇に対する通常の保護を請求することはできない。
オランダでは自動的な試用期間はなく、試用期間中の柔軟性は、雇用者と被雇用者が雇用条件の一部として合意した場合にのみ適用される。さらに、従業員の入社日前に書面で合意する必要がある。
オランダでは、無期限の雇用契約の場合、試用期間の最長期間はわずか2ヶ月であり、新入社員が適切かどうかを見極めるための期間は短い。雇用主が不安を感じた場合でも、試用期間を延長する権利はない。このアプローチが英国でも再現されるとすれば、雇用主は、従業員の職務への適性について確信が持てない場合、最終的な決断を下すまでに時間をかけ雇用を確定させるようなやり方ではなく、最長試用期間の終了間際に新入社員の雇用を終了させることが予想される。

オランダの試用期間は一般的に、(同じ雇用先での新しい職務ではなく)新しい雇用主との雇用にのみ適用される。労働党の新法は、「新規雇用者」に対する試用期間について言及していることから、同様の制限を含むものと推測される。
オランダでは、雇用の開始日が何日であったか、試用期間が開始日前に書面で合意されていたかどうかをめぐり紛争が生じるのが一般的である。
オランダでは有期契約が英国よりも一般的であり、有期契約には異なる規則が適用される。有期契約は、期間満了による解雇に事前の承認が不要であることから人気があり、雇用主が従業員を評価するにあたり、2ヶ月以上の期間を与えるために雇用関係発生時に利用されることが多い。英国では、有期契約満了に伴う雇用延長の不履行は、他の解雇と同様に解雇とみなされるため、このアプローチは英国では通用しそうにない。
6ヶ月未満の有期契約の場合、試用期間は認められない。有期契約期間が6ヶ月以上2年未満の場合、試用期間は最長1ヶ月。有期契約が2年以上の場合は、無期限の契約と同じルールが適用される。労働党政権が有期契約と無期契約に同様の区別を設ける予定かどうかは不明である。
英国の雇用主への影響
労働党の計画の詳細については、法案の提出を待ちたい。その間に、雇用主は一般的に既に新しい雇用契約には試用期間を盛り込んでいるが、従業員の同意を証明できるかどうかに、より注意を払うようになることが考えられる。英国の法律では、従業員が入社前に試用期間に書面で同意していることまでは要求されていないとしても、試用期間を受け入れたかどうかで争いになることは容易に予想される。雇用条件を書面で受諾することは、現状よりも重要になるであろう。
オランダの事例に照らして、入社日に関するアプローチを見直す価値もある。労働党政府が試用期間の上限を例えば6ヶ月とした場合、契約書に記載された後日ではなく、従業員の実際の入社日から適用される可能性が高い。人事システムで実際の入社日を確実に把握することがより重要になる可能性がある。
雇用主は、試用期間の監督・管理方法も見直す必要がある。雇用主が従業員の継続雇用について決定する前に、うっかり試用期間を過ぎてしまったということがないように、適切な時期にプロセスが踏まれ、決定がなされるように監督・管理することが極めて重要となる。
もし、特定のケースにおいて具体的なアドバイスが必要な場合はLewis Silkin LLP法律事務所の Abi Frederick弁護士Abi.Frederick@lewissilkin.com まで、ご連絡をお願いいたします。

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